「直感」文学 *本の音*
「ページを捲る音が好き」
彼女はそう言って、僕が読んでいる本に耳を近づける。
「ちょっと、読みづらいって」
「いいじゃない。ここで静かにしているだけなのだもの」
僕の右手のすぐそばには彼女の顔があって、僕は本に集中することが出来ないでいた。
「ごめん。やっぱり読みづらいんだよ」
そう言うのに、彼女はそこから離れようとはせずに、黙ったまま、僕がページを捲る音を静かに聞いていた。
「お願い。あともう少しだけ」
しょうがない、そう言うから。僕は出来る限り本に意識を寄せて、物語に集中しようとした。
それなのに、
僕に印象付けられるのは、
そのページを捲る音だけだった。
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