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「直感」文学 *だけど、まだ*

 風が吹いた場所で、僕は一つのことを思った。
〝ああ、今、この場所に俺はいるんだ〟って。
馬鹿らしいと思うだろう?それに、なんぜ風が吹いたらなんて思うのだろう?
疑問は疑問のままとって置いて欲しい。だって僕にだって答えなんて出ていないのだから。

「人生が綺麗なまま終われるって、誰か思ってる人なんているのかな?」
ひよりは、そう言った。目の前に座る僕に向かって。
「人生ってさ、そんな綺麗なものじゃないよね」
確かめるようでいて、同意を求めるようでいて、脅迫しているようでもあった。
「……そうかな。……僕はそうは思わないけど」
「じゃあなに?」
彼女は僕を見据えて(少し睨みつけるような目付きで)、手元も見ずにスパゲティをクルクルとフォークに撫で付ける。
「……まあいいけど、別に。あなたはそういう考え方の持ち主よね」
そういう考え方。彼女は僕を理解したようで、全くもって理解などしていないことを僕は知ってる。そうやって僕を拒絶している。そしてたまにこういう話をするのは、僕を彼女自身の思考の中に取り入れようとしているからだった。彼氏として、彼女がそう考えてくれるのは幾分嬉しくもあったけど、本来考え方というのは無理強いするものではないし、個人個人が持っていていいものであった。
「ひよりの言っていることは分かる。……なんとなくは。だけど、そんな先のことまで僕は考えが及んでいないんだよ。もっと〝今〟だけを考えて生きているんだと思う」
今度、彼女は遠くへと視線を移した。何を考えているのか見当もつかない。だけど僕たちは恋人同士だった。

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