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「直感」文学 *気付けば、空*

「東京って星が見えないんじゃなかったっけ?」
僕の部屋のベランダから体を乗り出して空を見上げた彼女はそう言った。
「東京って言っても、ここは端っこの方だから」
僕は暖かくなった部屋の中で、彼女の背中を見ながらそう言った。
 
 昨日、彼女が東京に来た。東京は初めてだと言う。
 僕たちは元々地方の中学、高校と同級生だったけど、僕は進学のため上京し、彼女は地元の大学に進学した。こうして僕たちが離れ離れになって三ヶ月が過ぎた。最初はそれこそ寂しさを感じたけど、馴れてしまえばさほど大きな問題でもない。なにより、今はいつだって自由に連絡が取れる。全く話すことも出来ないのならもっと大きな寂しさを抱いていたかもしれない。
 そんな彼女が突然こっちに来ると言い出した。別に僕としては何の問題もないから快く受けれいたけど、どこか……、どこか僕たちは別れることになるんじゃないだろうか、という気がしていた。三ヶ月離れて気付いたのは一つだけ。僕たちは離れてもいられるということだった。
「東京って広いんだ」
彼女はまだ空を見上げていた。
「それよりどうしたの急に」
僕はまだ彼女の背中目掛けて声を出す。
「別に。ただ、ちょっと会いたくなったから」
土日を利用して来ている彼女は明日には帰らないといけない。僕たちが会っていられるのはあと何時間だろう?
「別れ話でもすると思ったでしょ」
突然の問いかけにびくりと体を震わせる。気付けば彼女はもう空ではなく僕を見ている。
「……いや」
「見え見えなんだから」
彼女は笑った。
「そんな簡単に別れないよ。……それに私だってたまに東京来たいしさ」
彼女はまた空に顔を向ける。
 東京には確かに星があった。だけど、僕たちが生まれ育った町より、ずっと弱々しい光だった。

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