「直感」文学 *ハットとミサト*
「ねえ、まだなの?」
僕はミサトに急かされながらも、15個あるハットの中から今日の気分に一番合ったものを選び出そうとしていた。
「ねえ、どれも変わらないって」
玄関から聞こえてくる声を無視しながら、僕はじっと帽子を眺めている。
彼女を無視するのだって仕方ない。だってこれが僕の唯一の楽しみだとも言えるのだから。
帽子を被るまでの時間。こうして15個のハットを並べて、自分の気分に合った帽子を探す瞬間。
それはまた、自分のその時の気持ちを見つめ直すようでもあった。
今、自分は何を欲しているのか。それを改めて見つめ直しているのだ。
「もお!いい加減にしてよ!」
玄関にいたミサトはいつの間にか僕の隣まで来ていて、頬を膨らませている。
「ほら!もうこれにしなさいよ!」
と言って彼女が手に取ったハットは、いつだって僕の気分にマッチしているのだ。
そう、実に不思議なもんだ。
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