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「直感」文学 *あの道の、あのお店。*

 この道を通る度、私は目を奪われてしまうのだった。

 実際に人がいるのかどうかも分からない、小さな洋服店。

 ショーウインドウには裸のマネキンが置かれ、いつだって服を身につけていない。外から見る限りでは店内は暗く、その中に店員はおろか、お客さんの姿だって見つけることは出来そうになかった。

 ただいつだって開け放たれているそのドアが、かろうじてお店が営業している様を伺わせていて、それを見た私は勝手にこのお店が営業しているものだと思い込んでいた。

 私はこのお店が、気になって気になって仕方なかった。だけど、私にはこんな形相のお店に入る勇気がなかった。ドアは開け放たれていて、いつだって私を受け入れてくれそうなのに、なぜだか、私はこのお店”そのもの”に拒絶されているように感じてしまっていたのだった。

 それは衣服を身につけていないマネキンや、店内は暗く、中の様子が見えないことが原因だと思う。

 だけどそれだけじゃなくて、なにより私は洋服というものに興味を持っている人間ではなかったのだ。そもそも。

 私が来ている洋服は全部、お姉ちゃんのお下がり(彼女は洋服というものを、これでもかというくらい買っていた)ばかりだったし、自分でお店に行って、洋服を買った記憶なんて一切なかった。

 そんな私が、あからさまな洋服店(マネキンは衣服を身につけていないけど)に入ることが、一体許されるのだろうか。

 どうしようもない感情だとは思うけれど、それは私にとってこのお店に入ることを諦めるための、大きな理由となったのだった。

 そして今日もそのお店は、いつも通りドアが開け放たれていた。だけど相変わらず店内は暗いまま。もちろんマネキンだって衣服を身につけていない。

 いつも通りの、その洋服店の形相だった。

 私は遠巻きからそのお店を眺めては、何度も何度も、そこへ入ることを諦めた。諦めた分だけ、何度も何度も入ろうと決心もした。

 だけどそれは叶わぬまま、私はまたそのお店の前を何もなかったように通り過ぎていく。そう何もなかったように。

 「ねえ、ちょっと!」

 後ろからする声に呼び止められ、私は振り向いた。そこには40代くらいの女性が立ち、私を真っ直ぐに見ていた。

 私はただ呆然と立ち尽くし、何も言わないまま、頭の上にクエスチョンマークを浮かべた。

 「あなた、ずっと見てたでしょ?」

 その女性はそう言ってから、笑顔を私に見せたのだった。

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