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長編小説『becase』 20

「あなたには関係のない事です」

私も私でなんでこんな正直に応えているのだろうと不思議に思う。彼がいなくなったなんて事はこの人には全く関係のない事だし、言う必要もなかったはずなのに、私はまずそれを第一に言ってしまったのだ。もう逃げ場がなかった。美味しそうな獲物を見つけたでんぱちは尚も私を攻撃し続ける。たまに生姜焼きを食べ、その合間をぬって絶えず口を開いた。随分と忙しげな口元だった。

「あんたに問題があったんじゃないか?ほら、あんた、性格きつそうだしな」

「……余計なお世話です」

「図星だろう?あんたきっとあれだよ、自分でも気付いていない所で彼を傷つけてたんだなー。俺は分かるよ。あの彼の気持ちがさ」

お前に何が分かるのだ!私のこの握られた拳で、カウンターを思いっきり叩いてぶち壊してやりたい感情に苛まれる。私の力じゃカウンターなんて壊す事はできないし、結局自分の手に痛みが残って終わるだけだからそんな事はしないけど、どうしたって腹が立ってしょうがない。いっそ店を出て行ってしまおうと思った瞬間に、無口な店主は無口のまま私の前に焼き魚定食を差し出した。焼かれた魚と目が合って、そんな自分の抱いていた感情が急に馬鹿馬鹿しくなってくる。その時だ、その時でんぱちは私が思いも寄らなかった事を口走ったのだ。

「あの彼ならな、昨日見たぞ」

私はほとんど反射的に振り向いて、でんぱちの目を真っ直ぐに捉えた。

「は?」

焼き魚定食なんて無視したまま、随分と大きな声でそう言った。純粋に意味が分からなかったのだ。間違いなく消えてしまった彼を、どうしてこの人は見る事ができたのだろう。彼は間違いなく私の生活から消えてしまって、だから、この世界からも消えてしまっているはずなのに。

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