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「直感」文学 *どこかのご飯*

 匂いはどこか独特で、見た目だって良いもんじゃない。ただ味だけは美味しかった。
 昨日、名前も知らない古民家で食べたご飯。名前だって分かりはしない。ただそれが茶色かったことと、素晴らしい舌触り以外は僕の記憶に残っていなかった。
 あれはなんだったのか……。
「茶色くて、……こう、どこかパサパサしてるんだよ」
僕がそう伝えると、彼女は怪訝な顔をする。
「そんな説明で分かる人なんているの?」
ごもっともだ。なにせ僕だって分かっていないのだから、答え合わせのしようだってないじゃないか。
「なんていうか、こう……、ツヤツヤしてるんだよ」
「さっきパサパサって言ってなかったっけ?」
「んー、パサパサもしてるし、ツヤツヤもしてる。……バランスが良い」
「バランスが良いって……。知らないよ」
彼女はさっきから正論を述べる。だけど別に僕はふざけている訳じゃない。至って真剣で、それに真剣に当てて欲しいとも思ってる。だからこれ以上の説明が出来そうにない。
「だからパサパサしてて、ツヤツヤしてて、茶色い食べ物だよ」
呆れた彼女は、もう返答もくれなくなってしまった。
 ……舌触りだ。これだけは明確に覚えている。もう一度食べることが出来たなら、「これだ!」と大声で言うことが出来る。ただそれが叶うかどうかは僕にも分からないのだった。
「バカみたい。夢で食べたご飯でそんなに熱くなれるなんて」
彼女はそう言って、大きな溜息を吐いた。

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