フリースクール活動を「行政の方が視察に来てくれた」の報告

岐阜県七宗町で活動しているフリースクール寺子屋じゃあさ を運営しているNPO法人じゃあさアカデミー代表理事の井川香苗子です。先日、寺子屋活動を2つの自治体の教育委員会の方が視察見学に来てくれました。その報告をしたいと思います。

当NPOの登記は岐阜県加茂郡七宗町です。私、井川がこの地域で寺子屋活動を始めたのは、当初は、この七宗町にも不登校の児童・生徒が全体の1割いるので、この地区でもフリースクールが出来てほしいから、という地域の方からのオファーでした。しかしながら活動を始めて1年半以上経ちますが(立ち上げ準備の時から数えて)七宗町の児童生徒さんの家庭からフリースクールへの問い合わせはいまのところありません。

「寺子屋じゃあさ」という名前で、まずは井川の個人活動で始めたのは23年の5月です。その開校当初から利用しているのは、当時小学1年生の男の子(八百津町)と女の子(御嵩町)の二人です。それが半年したところで、小学1年生の男の子(関市)が加入し、今年の4月には新1年生の女の子(御嵩町)が加わり24年4月からは4名で活動しています。

先日郡上市の釜ヶ滝へ遠足に行きました!

現在、この寺子屋活動日は火曜日~金曜日の4日間で、日によって活動時間の差はありますが、午前9時~15時、16時半というスケジュールです。見守りスタッフは、私とNPO法人の正会員の二人が固定スタッフということで行っています(各日一名)。NPOからは給料は発生しておらず、ご家庭と見守りスタッフとの個人の信頼関係の上に成立しています。(家庭から見守り賃を支払っていただいています)

正会員のみゆきちゃんと私・井川

去年の6月か、7月に通っている子どもの学区の校長先生と教育委員会の方が活動内容の確認に見学にきてくれました。一年に一度のペースで確認をされたいのかどうかはわかりませんが、今年も見学希望の連絡がありましたので、お越し頂きました。寺子屋では週に1度、下呂市金山町在住のおおしまゆかこさん(活動名)に習字の講師をお願いしていてその活動の様子を見て頂きました。

習字の時間の最初はまずは筆遣いの確認から
講師のおおしまゆかこさん

寺子屋じゃあさの普段の活動は、「子ども達が過ごしたいように過ごす」が基本です。でもそれだと遊んでいるばかりに見えちゃいますよね。それにはすごく大きな学びや意義があるのですが、世間では「遊んでばかりいるのは子どもの教育といえないのではないか」という視点の方がおみえです。私たちにとって「非常に価値のあるねらいの活動」ですが、教育観の違いでこの活動を偏見を持って「評価」されるのは避けたいです。視察者さんの気持ちも考えます。いわゆる「学習している図」というのが視察者にとっても安心なのではないか、と思ってしまうのです。というのは、視察された方もどこかへ報告しないといけないと思うのです。その方々にとっても報告が苦しくない姿を見せることは重要なのではないか、と思うんですね。その点「習字」というのは、当たり前ですが学校のカリキュラムにある重要な学びのファクターです。なので寺子屋じゃあさで学習面のフォローをしている、という報告をあげてもらえれば双方にとって安心だよね、という思いです。「ごまをする」わけではないですが、世間に認めてもらうう、というのも本当に大切なことだし無用なハレーションを作る必要はないですからね。

寺子屋じゃあさに通っている子どもの学区の校長先生と教育委員会の委員さん
寺子屋じゃあさの活動拠点自治体の教育委員会の方

寺子屋じゃあさで普段していないようなことを「あたかも取り組んでいます」というような授業参観だと問題ですが、普段やっていることですからね、習字にしたって。

あくまでも毎日の活動の中で取り組んでいる姿を等身大のありのままお見せするのが寺子屋じゃあさの在り方です。七宗町の方がお越しの約束の日は、本当は「室兼集落」にある「古民家じゃあさ」での遊びの風景を見て頂きたかったのですが、あいにくの雨降り日で古民家じゃあさでの活動ができなかったので、普段の活動場所である上麻生駅近くの「じゃあさ事務所」に来ていただきました。この日は子どもが持参した「ベーブレード」が面白く4人で朝から盛り上がっていましたのでその様子を見て頂きました。教育委員会の方はすでに何度も来られていて子ども達とは顔なじみだったので、「みんな、おはよう!」と先方がハイタッチしてくれるのを子ども達も喜んで応じて、遊びの中身を説明するなど、本当に自然体の姿を見て頂きました。

さて、今回の教育委員さんとの意見交流の中で、先方の気づきの質問でよかったことをシェアしたいと思ってレポートを書いています。まさに私の行動の奥にある狙いをうまく言い当てて表現してくれて、視点が高く、広く、さすがだなーと、ちょっと嬉しくなりました。こういう教育委員さんっていうのは、本当に子ども達の環境を考えてくれている人だなって思います。どんな話だったかと言いますと。

いま、私は七宗町に本拠地はあるものの寺子屋活動を各務原市でも週に1度行っていたり、コミュニティの連携を図ろうと他地域のフリースクール関連の人脈づくりをしています。先日は関市のライオンの隠れ家のヤギフィールドに子ども達を連れて行きヤギとのふれあい活動をさせてもらってきました。また、そのライオンの隠れ家でのフリースクールの見守りスタッフをしている青年にじゃあさの見守り活動日のボランティアをお願いしたりしています。その実績を教育委員さんに話したところ、感心された様子で、「そうやってフリースクール同士で連携し合っているんですね」と感想を言われました。それを受けて私が語ったことには、

井川「はい。こういったフリースクールっていう活動にはなんの保証もないのです。経済面も本当にギリギリでやっていますし私自身は教育者ではない(教育学部を出ていないし教員免許を持っていない、という意味)です。地域での活動にしたって、いつ何時どんな理由で続けられなくなるという可能性は常にあります。だけど、フリースクールを利用している家庭にとっては、教育委員の方には申し訳ないですが、公教育を選ばなかったのにはそれ相応の理由があるんです。なので、その家庭にとってみればフリースクールというものの存続は本当に死活問題です。だから、私も、この寺子屋が立ちいかなくなるなんていうリスクは常に考えているので他の団体との協働というのは外せないのです」と。

また、「子ども達の関係性も、じゃあさでは所詮4人なんです。これは、人間関係の多様を学ぶには、人間成長にはやはり少ないと思っています。年代についても、うちの子ども達は長子が多いので年齢の大きい子ども達と接する機会が少ないです。なので、そういう異年齢の子ども達、性別についてももっとたくさん交わる機会を持ちたいと思っています。だけど、フリースクールを選ぶ家庭は実際には少ないのが現状です。不登校家庭の多くの悩みはまだ「学習についていけない」とか「いじめにあった」とか、そういう感じで、家庭の多くの望みは市町が対策している個別学習を応援する事業とか、家庭相談室だと思います。なので、じゃあさも開校して1年を超えても問合せがほとんどない状態です。そんな中で子ども達の人間関係を広げるには、いま実際にフリースクールに通っている他団体との連携だと思うのです。

それから現在ひとつの情報として、とある地区に都会から子育て家族が集団移住しようとしているというのを聞きました。そのメンバーさんで移住先でフリースクールを始めたい、と思っていると聞いたのです。そういうご家庭とご縁して、例えば週に一度とか月に一度でもいいので交流できると子ども達の関係性に幅がでてくると思うのです。また当地区で始めるのに、先行して寺子屋じゃあさの取り組みを知ってもらうと何かの参考にもなると思います。公教育は制度として保証されているけれど、こういった民間はいろいろ知恵を出し合ってなんとしてもフリースクールを維持したり子ども達にとって有益な活動を展開していく、という、結構涙ぐましい努力をしているんです」と。

教育委員さん、「うんうん、わかるわかる」という顔で聞いてくれました!うれしかったなぁー。わーい。教育委員さんが分かってくれる!報われるわ!っていう思いでした(笑)
それらの連携の為の私の行動は、現状の手前の寺子屋活動には一見すると無関係に見えるかもしれませんが、実は実は「フリースクールという業界の未来」への展望が隠れているんですよね。

中津川にて 市民立花咲学園運営の高木晴代さん・あまこさん母娘、兵庫県三木市 フリースクール・子ども食堂運営 鈴木昭彦氏
八百津町「いろどりむら」視察。コミュニティ意見交流会を行った。参加者:恵那市、中津川市、坂祝町、関市、八百津町、三木市から。みなさん、地球循環活動、子どもの成長を支えるための活動など具体的に行動している主体的な生き方の方々。
八百津町「いろどりむら」毎月定期村会に参加。名古屋から2大学の教授が学生さんを連れてこの活動に参加している。「いろどりむら」活動を通して多くの知識人と繋がるきっかけに。
他団体のスタッフさんへの見守りボランティア依頼をすることや引き受てくれることも「すべては子ども達のため」という良識があれば垣根を超えられる。
関市のコミュニティ「ライオンの隠れ家」のヤギフィールドへ動物とのふれあいにお邪魔しました。

さて、話は前後しますが、改めて「寺子屋じゃあさ」がどうして始まったか、その誕生ストーリーを当初から通わせている保護者がとある通信に寄稿していたのをお借りして紹介します。

八百津町在住でデザインをお仕事としている画家の「北野玲」さんのご自身の通信「KT」から。

この記事でも書かれている通り、「寺子屋じゃあさ」を開始したきっかけは二家庭が公教育を選択しない、という現実があり、それを井川がサポートしよう、としたことが始まりです。私は兼ねてから「PCA」という概念を広げたいと思っていました。PCAとは親とコミュニティが「共通する理念」を持って公教育でない別の学びの場を作る、というものです。これを実行したいと考えていましたので、その二つがフィットしたので「寺子屋じゃあさ」は始められたのでした。

先に記載の関市のライオンの隠れ家というコミュニティの中には「賢者の学校」というフリースクールがあります。実はそれは、私が自分の娘が中1の時にコロナで新生活様式を強要されることに大変反発し、マスクをつけた生活を体の基礎を作る年代にさせることは親の務めとして断固拒否りたい、という思いから、同様の想いのご家庭と一緒に立ち上げたのでした。(いまは、私はライオンの隠れ家・賢者の学校から独立しています)

現代は、子育て観・教育観というのは、社会にあるものが「正」ではなく、子ども個人個人の特性や個性と家庭の思考でもっと柔軟に選べる時代になってもいいのではないか、というのが、わずかですが広がってきているのではないかと感じます。それは、一様に公教育を「否定」という風に見えるかもしれないです。それに対して嫌悪する考え方の方もいるように思います。でもね、社会構造って長いスパン、100年とか150年とかで変わるのが常じゃないですか。いま、そういう時期だと感じています。この社会システム自体が「賞味期限」を過ぎてきたんじゃないのかなって。教育に限らず、経済の在り方や福祉の在り方や、健康補償の在り方家族制度など。システムの問題で、そこに携わっている「人のせい」ということではなくて。

なんだかピンと来て買った書籍

「少数派による抵抗が社会を変革するビジネスを生み出している」まさに公教育を選ばないという少数派による抵抗がフリースクールを生み出しています。そのフリースクールのあり様はその団体それぞれの理念によっています。そういったさまざまなあり様の団体で成長を育まれた子ども達が成長した時にどんな社会になるでしょうか。画一的な教育観で育っていないと、自由発想できると思いませんか。寺子屋じゃあさの子ども達は7~8歳。他のフリースクールはもっと前から開始されているので、中にはフリースクールを出て社会に出た、という人も出てきています。そんな彼らがこれから社会でどんな面白い発想と個人を大切にした社会活動をはじめるでしょう。画一性を望まないから公教育を選ばなかった青年たちが社会活動を画一的にしたいと思わないに決まっています。これから社会が変わりだすことに期待せずにはいられません。

社会を変革するっていうのは、エネルギーが要ります。「社会の常識」に抵抗する訳なので、「点数を取るための勉強をして成長した」という成育過程では、その変革者の素地は育たないだろう、が私の見立てです。だって、抵抗してこなかったんだから、抵抗する力なんて育ちようがないです。

寺子屋じゃあさは、社会に対してクリティカルな思いの私が、公教育を選ばないとしたクリティカルな思いの家庭をサポートするために始まったフリースクールです。ですが実現させている寺子屋のあり様は実際の教育委員の方々にもちゃんと認めてもらえる活動になっています。

「家庭の望む教育観による教育」っていうのをもっと認めてもらいたいですね。子ども達にはそういった教育を受ける権利があることをもっと社会に認めてもらい、国は「教育を受けさせる義務」を家庭に課している以上、どの教育観であれ支えてほしいですよね。

教育長がいいました。いろいろ考えて頑張ってください。と。
私は、お力を貸してください!と言いました。

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