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301: 地面を打ち鳴らす雨音ドラム色

森の奥深く
あなたが知っている
あるいは知らない場所にある色屋のお話。

「ほう,コレは珍しい色ですね」
「久しぶりの雨期の始まりは,皆の心が
浮き足立ちますからね。この時期を
待っているのは、この地にいるすべてのものが
待ち望んでいますから.自然と跳ねます。」
「乾いた大地が多いあなたの場所での
雨期の始まりは,全ての生物の
物語の始まりでもありますからね。」

色屋は,瓶の中で弾けるように発色している
水色を繁々と眺めた。

「ここの森の雨とは,深みやありがたみが
また少し違うと思うのです。
1年の半分は乾いた空気の大地ですからね」
そう言うと,青年は
コップの水をおいしそうに飲み干した。
「ここの水は甘くて美味しいですね。」
「ありがとう。  森が作ってくれる水ですよ」

さーっと,午後の雨が
森の葉を打ち濡らす音が聞こえる。
「この控えめな音も素敵です。耳に優しい」
「あなたの所では激しそうですね」

青年は苦笑しながら答える。

「ええ。遠くからでも雨が降ってくる音が
聞こえて,ドラムロールのようになるので
期待値がどんどん上がり,最初の日は皆が外に出て踊ってしまうほどですね」
「それは楽しそうだ」
「皆が生き生きとします」

「さて,この控えめに降る雨に当たりながら
帰りたいので,今日はもうお暇いたします。
次回の納品も,乾いた大地の色を
楽しみにしていてくださいね。」
「ええ。あなたが持ってきてくださる色は
思いがけない瞬間が閉じ込められているので
いつも楽しみです。待っていますね。」

カランコロン

青年は,レインコートのフードを目深に被り
ゆっくりとした足取りで森を後にするのでした。
色屋の手元には激しく跳ねる雨の色の瓶。
それぞれの雨が楽しそうに呼応するのでした。

乾いた大地の雨の降り始め,見てみたいですね。

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