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323: 水面から海底に届いたモーニングコール色

森の奥深く
あなたが知っている
あるいは知らない場所にある色屋の話。

キラキラキラキラ…
海面から,美しい声の光の粒が落ちてくる。
それはしばらく海底の砂をキラリと光らせた後
儚く消えていく粒だったけれど,
最初に気がついた噂好きの魚が
綺麗だったんだよ〜と皆に話して周り,
それを聞いたタコが,それなら一度観に行こうと
壺から這い出て見に行って,
美しいなとつぶやいたものだから,
それならオレたちも見に行こうと,
様々な海の生物が観に行って,
最後に,幻と言われている人魚にまで噂が届き,
里帰りを兼ねて見にきていた。

着いた日は昼頃だったから,その場所には
黄色の粒だけではなく,赤やオレンジ,
時には哀しい沈んだ色の粒も落ちてきた。
人魚たちは,その粒を含んだ砂をそっと掬い
しばらく眺めていたが,
それらのキラキラの粒も儚く消えていった。

海は,地上のものにとって
色々な秘密を打ち明けたり,
楽しさを爆発させるのにぴったりな場所らしい。

それを海底から,ニコニコしたり
悲しくなったりして,光の粒を見ている
生き物たちがいる事を知らないようだ。

大昔,王子様を好きになり,人間になった
人魚の女の子がいたけれど,
あれは大変な出来事だった。
海中が固唾を飲んで見守っていたものだ。

その海底がこのあたり。
今,人魚たちは,
陸から遠い場所に暮らしているので,
その後のお話を知らない。

ああ,夜が明ける頃,澄んだ歌声が海面を滑る。
遠い先祖に人魚を持つ人間の子の朝の挨拶だ。
なめらかにすべらかに海面を渡った歌声が
太陽の光に当たり,光の粒となり
キラキラとこの海底まで降り積もってきている。

「おはようおはよう!私の故郷!
今は住む地を分けた私たちだけれども,
今でも語り継がれる海の底の美しさ!
私がいくことは叶わないけれど,
代わりに地上の美しさを届けます!
おはようおはよう!
聞いてくださっていますか?
私の歌声を?』

キラキラが海の底に積もり、周囲を明るくする。
寝ぼけ眼の人魚たちも,歌声に合わせて覚醒し
返歌を送る。  それは人間には,
波の泡にしか見えないだろうけれど,
確かにお互いが確かめ合うひとときの間。

いつかその砂を,お互いでそっと持ち会える
日が来ると思う,そんな邂逅の朝の時間。

そんな大切な砂の色を,
色屋は分けてもらい,そっと棚に置いてある。

時折,瓶に耳を寄せて海からと地上からの
歌声が混じった音を聴いている色屋。
誰かに買われていって,
そっと耳を傾けて欲しいような,
いつまでも手元にあって欲しいような,
そんな微妙な顔をして,毎回,瓶を棚に戻す。

あなたも色屋にいって,
この色を見つけて,歌を聞いてみてください。
いつもと違う顔の色屋が見られるかもしれません。

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