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取り返そう、未払い!



<参考資料>
日本加除出版「地下アイドルの法律相談」
深井剛志・姫乃たま・西島大介/著 
https://idol-horitsu.com

深井剛志 X アカウント
@TSUYOSHIFUKAI
https://x.com/tsuyoshifukai

寺嶋由芙 Xアカウント
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寺嶋 Podcast「アイドルと法律」!この番組では、ソロアイドル11年目、フリーランスのソロアイドルとして働く、ゆっふぃーこと寺嶋由芙が、アイドルの労働問題に詳しい弁護士としてご活躍の深井剛志先生から、アイドルが知っておくべき法律を学びます。日本加除出版株式会社から発売されている「地下アイドルの法律相談」著者でもある深井先生が、働くアイドルゆっふぃーに、アイドルが直面しがちな労働問題をわかりやすく説明してくれます。

整えよう、あなたの推しの労働環境!

というわけで皆様こんにちは。古き良き時代から来ました!真面目なアイドル、真面目にアイドル!ゆっふぃーこと寺嶋由芙と

深井 弁護士の深井剛志です。

寺嶋 よろしくお願いします。

お願いします。

寺嶋 さあ、「整えよう!あなたの推しの労働環境!」といつもコールして始まるこの番組。本日のテーマは「取り返そう!未払い賃金」です。

深井 はい。

寺嶋 はい。未払い賃金ってなんで生じるんでしょう?

深井 お金の話はね、第2回目でしたかね、話したと思うんですけれども、アイドルの契約によって、こういう風にそのお金を払いますよというのが決まっている場合があるんですけれども、1番典型的なのは「その通り払ってくれない」。そういう風に決まっているにも関わらず、その計算をちゃんと守ってくれないで、少ない金額で払ってきた、これ未払いなんですけど…っていうケースとか。あとは、ほんとは引いちゃいけない経費の項目を引いて渡されたとか。あとは、単純に「辞める」っていうふうに言ったら、もう嫌がらせで最後のお給料払ってこなくなっちゃったとか、そういうケースもありますね。

寺嶋 でも、そんなのダメに決まってるじゃないですか。

深井 そうですよね。

寺嶋 なんでそんなことするんですか?

深井 やっぱり会社にもお金がないとか、そういうことで払ってこなかったケースもありますし。あとは最後に言った、辞める話をしたら払ってこなくなったっていうのは、もう、それは嫌がらせです。

寺嶋 そうですよね。

深井 うん。で、そういうケースはね、ちゃんと払ってくれてないっていうケースだから、ちゃんと払うべき金額ってのが出せれば、「それは未払いですよ」と、「少なく払ったの。未払いですよ」と言えるんですけど、ちゃんと払ってるのに金額が少なすぎる、みたいなケースもあるんですよね。

寺嶋 そもそも、お金が発生してないってこと?その契約書通りに計算しても、少ない?

深井 そういうケースもありますよね。例えばですけど、これも第2回で話しましたけど、アイドルの契約っていうのは、報酬がもうチェキのバックだけだと、そういうケースもあるので。そうすると、月のね、お給料が1万円とか2万円とか、それだけしか払われないっていう人、結構いるんですよ。そうすると、それ、もう生活できないわけじゃないですか。で、これも第2回で言ったと思うんですけど、「アイドルが労働者である」ということになった場合には、最低賃金法っていう法律が適用されることになりますので、最低でも、その最低賃金に当てはまる金額は払わなきゃいけないよということになるので、その払ってない分、最低賃金にも達していない分は、未払いですよと、そういうことになります。

寺嶋 それは、時間を自分で計算して、というか、記録しておいて、「こっからここまでの時間を私は働きました」っていうのを提出して、賃金を決めるんですか?

深井 ですね。本来払ってもらうべき金額っていうのは、最低賃金法による計算っていうのは、「働いた時間×その地域の最低賃金」になります。なので、まず、時間が必要になりますよね。その時間っていうのは、そのアイドルが稼働した時間、要は労働時間になります。

寺嶋 それって、例えば「ライブが19時から20時でした、夜の。でもリハーサルのために18時に会場入りしてます。」だったら、18時から20時?

深井 基本そうですよね。18時から来るようにと指示されて、仕事として出たわけですから、その18時からやっぱ業務時間、労働時間ってことになりますよね。

寺嶋 ただ、アイドルはですね、逆リハっていう文化がありまして。

深井 はあ。

寺嶋 トリの子が1番最初にリハをするんですよ。

深井 はいはい。

寺嶋 それで、例えば6組出てるんだったら、6組目の子が1番目にリハをして、その後空き時間になるんです。で、5番目に、トリ前に出る子は2番目にリハをするから、間が空き時間なんです。で、1番最初に出るはずの子が1番最後にリハをして、だから会場入りが1番遅くて…みたいな。自分の出番によって間の時間が開くとか、「全部拘束されてたわけじゃないんだけどでも朝10時に会場入りしなきゃいけなかったんだよね」みたいなこととか、どう計算したらいいか自分ではわかんないことが結構あります。

深井 それは、その労働時間っていうのがどういうものなのかということに関わってきますよね。労働時間っていうのは、会社側もしくは使用者の指揮命令下にある時間っていうのが労働時間と言われていて。一方で、労働時間じゃない時間っていうのは、その指揮命令下にない時間と言われているので、指揮命令下にない時間っていうのは、何しても自由っていう時間なんですよ。

寺嶋 じゃあ、中空きで「ちょっとお買い物行ってきます」の時間は労働時間じゃないんだ。

深井 それが許されてるんであればね。でも、普通許されてないでしょ。そんな。

寺嶋 私、許されてる(゚ω゚)

深井 わかんない。いや、それはソロだから。

寺嶋 そっか、ソロだから(゚ω゚)そうかも。グループだともう「ここで待っててね」って言われることも(あるのか)。

深井 僕がこれまでやったアイドルの中で、それ許されてる人いなかったですけど。

寺嶋 私は結構、合間の時間に別の仕事しに行っちゃったりします。

深井 そうなんだ。リハが何時間も空くんであれば、ですかね。そういう子もあんまいなかったような気がする。

寺嶋 そうなんだ。なんか私特殊だな、毎回(゚ω゚)

深井 なのでその時間、外出が許されたりとか、それはないですと。基本楽屋で待機ですっていう風になったら、それは完全な自由時間とは言わない。

寺嶋 待機時間も労働時間に入れていい?

深井 そうですね。よく言われることですけど、会社でね、休憩時間中にも電話番をやらされましたと。それは完全に労働から解放されてるわけじゃない。指揮命令から解放されてるわけじゃないということで、そういう時間は休憩時間であっても労働時間になるというのが一般的な解釈ですよね。

寺嶋 そうなんだ。

深井 なので、基本的には、今のケースで言うと、スタジオに入った時間から解放されるまでの時間を労働時間としていいと思います。

寺嶋 そうやって自分がどれだけ働いたかを記録をつけておいて、本来もらうべきだった賃金を計算すると。

深井 うん。自分の記録でいいのかっていう問題はちょっとあるんですけれど。

寺嶋 そうですよね。

深井 うん。「その記録、勝手につけた記録だろう」みたいなふうに言われてしまう可能性もある。

寺嶋 ありますよね。

深井 うん。普通の会社だったら、当然タイムカードとかそういうのがあるはずなんで、そのタイムカードを切った時間は、労働時間でしょうと普通言えると思うんですけど。アイドル。そういうものがないので。どうしましょうかっていうことですよね。

寺嶋 もうTwitterに自撮りの写真と一緒に「楽屋入りました」とか毎回残すとか。

深井 それはいい手段だと思います。それいい手段ですよ。結構そういう指示を、アイドルじゃないですけど、会社員の人にする場合はあります。

寺嶋 そうなの!?SNSに記録する。

深井 SNSだとね、ちょっとあれなんで、写真撮って、例えば家族がいる人は「今から帰ります」って言ってメールを送るとか。

寺嶋 そういうの、証拠になるんだ!

深井 ならないわけじゃないですね。ちゃんと会社から送ったってことがわかるような形で、例えば、会社の時計を撮って、その写真と一緒に送るとか。

寺嶋 なるほど!そうすると、後で見た時に、「こんなに遅くまでやってたのか」っていうことがわかる。

深井 そうですね。なので、さっきね、「最低賃金で働いた時間×最低賃金」、金額でお給料を計算するという風に言いましたけど、時間のね、計算時間を証明する証拠。それがね、すごくアイドルは大変です。

寺嶋 大変だとおもいます。

深井 これまでやったケースで言うと、その日その日のスケジュールを、もう全部マネージャーなり社長が入りの時間から終わりの時間まで、ちゃんと書いて、送ってくれるという、そういう事務所がありました。それだと、その入りの時間から終わりの時間までっていうのを労働時間にすればいいですよね。で、それが1つの現場だったとして、そっから移動して、また次の現場だった時には、その現場ごとに、その入りの時間と終わりの時間がちゃんと書いてくれてるので、その間、移動時間も拘束されてるから…っていう風に計算して、基本的には、「その日の初めから終わりまで、全部労働時間ですよ」という風に証明したことはあります。

寺嶋 それは、その事務所というか、運営側がちゃんと記録を残してくれてたからっていうとこですね。

深井 ですよね。それは結構やりやすかったケース。だけど、それもやっぱり1日1日ちゃんと全部、運営の送ってきたものを分析してやんなきゃいけないので、タイムカードとは全然訳が違いました。結構大変だった。

寺嶋 大変だ。

深井 その証拠を見るのが大変でした。

寺嶋 うんうん。

深井 で、たまにそれだけね、まめな運営なんだけど、うん。たまに、そのタイムテーブルだけ送ってくるような、うん、場合もあったので、そういう時は、そのタイムテーブルから割り出して、これが何時に始まりであれば、

寺嶋 何時間前に入ってるんだろうなって(わかる)。

深井 で、それはなんかルールで決まってたらしいんで、出番の1時間前集合とかっていう。うん、それはなんか結構しっかり決まってたみたいなんで、その時間に入ったと。で、終わりは物販終了後20分後までとかね。そういうルールが一応決まってるみたいなんで。

寺嶋 そうなんだ。

深井 うん、それを全部読み解いて…

寺嶋 大変。

深井 タイムテーブルから読み解いてやるとか、そういうことはやったことありますね。

寺嶋 大変ですね。

深井 うん、それは大変だった。

寺嶋 なんか、かかる労力がすごくて、そこまでしなきゃダメなのかっていうのがちょっと「うっ(´°ω°` )」って今思っちゃったんですけど。

深井 あとは、ちゃんとね、スケジュール管理アプリをメンバーに全部配布…配布っていうか、アプリを使うようにして、もうスケジュールを全部そこで管理している事務所なんかもありますよね。それは、僕はアイドルの事件としてやったことないですけど、使ってる例は見たことあるんで、こういうのがあれば結構楽だなと思ったことはあります。

寺嶋 なるほど。なんにせよ、記録がまずはちゃんと必要ってことですね。

深井 そうですね。

寺嶋 で、それらの証拠が集まったとして、じゃあいざ「これだけの未払いを払ってください」って請求するには、どういう手段があるんですか?

深井 これはもちろんね、アイドルの請求に限らず、どんな法的請求でも一緒ですけど。弁護士に頼んだ場合には。弁護士を通じて、内容証明郵便を送って請求をかけるというケースが1つ。それから、裁判とかそういうものを使うっていうのがもう1つですよね。

寺嶋 はい。

深井 で、僕も何回もアイドルの未払い、内容証明郵便で請求したことありますけど。反応が全然ないですね。やっぱり。

寺嶋 内容証明を無視するってこと!?

深井 そうですね。特に、辞めた時に嫌がらせ的に払ってきてないケースが結構あるんですけれども、それについては、「辞めますよ」ということを弁護士から改めて通知するんですけど。で、「この月の分のお給料払われてないですから、ちゃんと払ってください」と最後に書いて、で、振込み先まで丁寧に書いて、送ってんのに、基本無視ですよね。

寺嶋 無視していいんですか?内容証明って。

深井 内容証明って言うと仰々しいですけど、

寺嶋 「送ったよ」っていうことが証明される…?

深井 されるものであって、言ってみればただの手紙ですから。

寺嶋 そうなんだ。

深井 うん。

寺嶋 「送ったよ」っていう記録を自分が持つために、送り手側のためにある制度ってことですか?

深井 そうですね。内容証明っていうのは、送った内容と送った日、そして届いた日を、郵便局が証明してくれる、そういう郵便なんです。だから、内容証明って言って、届いた内容まで郵便局が全部記録を取ってくれているので、どういう内容で送ったのかが、必ずわかる。証明される。で、届いた日も郵便局がちゃんと証明してくれる。そういう制度なので、賃金請求とかで、ちゃんと向こうが受け取ったこと、それと、いつ受け取ったのかが明らかになる制度として、基本的には弁護士はこれを使うことが多いですね。

寺嶋 でも、無視されちゃう?

深井 ことが多いですね。やっぱりね。

寺嶋 そうしたら、どうしたらいいんですか?

深井 普通は無視されたら、何回も電話かけて、「なんで無視するんですか」と。「返事をください」っていう風にしたりとか、さらに再度通知を出したりとかするんですけれども、やっぱりアイドルの運営さんって、ほんとにあんまり会社としての体制が整ってないことが多いんで、社長が1人でやってるみたいな感じだと、もうそれに対応する体力がない。

寺嶋 うんうんうんうん。

深井 そんな感じで、おそらく無視してるんだと思うんで、もうそれだと払ってくれることも期待できないから、アイドルさんに事情説明して、「どうします?」って言ったら、「もういいです」みたいなふうになることもあります。

寺嶋 「いいです」っていうのは、「払ってもらえないことで諦めます」ってこと?

深井 うん。数万円だったりするんで。

寺嶋 そっか。裁判したりする労力考えたらって。

深井 そうですよね。その数万円のために裁判やるってのは、ちょっと僕もあんま勧めないので。という場合もあれば、僕がアイドルの賃金未払いで裁判やったのは3件あるんですけど、

寺嶋 結構ありますね。

深井 うん。1件はさっき言った、タイムテーブルとかすごい分析したケース。それは何十万円になったんで、しっかり裁判で請求しました。それから、そうじゃないんだけど、1月分の売り上げが全く入ってきてないケース。で、それはアイドルさん2人で来たんで、1人あたり18万円ぐらいだったのか。なので、合計35万超えたので、これだったらやってもいいかなっていう感じだったんで、2人で合わせていくらかもらって、裁判起こしました。

寺嶋 大変だ。

深井 そういう風に無視されたら、次にやるルートとしては、基本は裁判ですね。

寺嶋 そうなんだ。裁判なんて起こされた方も大変だろうに。でも、裁判を起こせば必ず取り返せるんですか?

深井 で、そのケースで言うと、まず1つ目は、さっき言ったそのタイムテーブルとか、すごい分析したケースについては、法律構成は、「労働者なのに最低賃金の金額が払われてなかった」、というのが法律構成なので、時間の計算をもう1日ごとにやって、かける最低賃でやる。

寺嶋 はい。

深井 で、その時の勝敗の決め手は、そのアイドルが労働者だったかどうかですね。労働者であれば、その時間かける最低賃金は払ってもらわなきゃいけないので、ほぼ確実に勝ちですよね。だけど、労働者であるっていうことが認められなかった場合には、もう0ですよね。

寺嶋 そうなりますよね。

深井 だから、労働者であるかどうかがポイントになります。「勝てるんですか」っていう点については。

寺嶋 その子は、労働者だっていうことを認められるに至る労働者性があった。

深井 と僕は考えてます。その件はね、最後、和解で終わっちゃったんで、最後まで、判決まで行ってないんですけど、和解で、結構こっちに有利な和解で終わったので、基本的には判決まで行ったらこっちが勝つだろうなっていう判断を相手もこっちもしたんだという風に思ってますけれども。あとは、そのケースで言うと、やっぱり労働時間をすごく緻密に僕も計算しましたけど、それが全部認められるかって問題ありますよね。例えばだけど、さっきの例で言うと、1つの現場からもう1つの現場に行った時に、その間、移動時間なんですけど、数時間あったりするんです。この現場の移動に数時間いらないでしょ、となると、じゃあそれ全部労働時間なんですかと。

寺嶋 うーん、でも難しいな。だって、数時間あいちゃうけど、移動だけだったら確かにかからないけど、その数時間って、結局、仕事と仕事の合間の数時間だから、じゃあその間になんかこう、好きなこと何でもできるかっていうと、そうじゃないじゃないですか。

深井 そうですよね。普通に考えたらそうですよね。だけど、裁判所ってやっぱりあんまりそういう感覚ないので。

寺嶋 そうなんだ。

深井 うん。じゃ、このあいてる期間、時間、本当に全くね、会社の指揮命令下にあって、好きなこともできないような時間だったんですかと。30分で移動できるところ、4時間あいてますけどみたいな。っていうと、ちょっと…って感じですよね。やっぱり。

寺嶋 そっか。

深井 うん。ちょっとそこは裁判官から少し指摘受けました。だから、もしかしたらそこで大幅に削られちゃうところがなくはなかったかもしれない、何日分かあったかもしれないですね。

寺嶋 そうなんだ。

深井 だから、勝てるかどうかっていうことで言うと、今のケースで言うと、その2つですよね。労働時間の証明がちゃんとできるかどうかってことと、労働者性の証明、労働者性を認めさせられるか。その2つが結構ポイントになってきたかなと思います。

寺嶋 今のは、「アイドルは労働者だ」っていうことを軸に考えた時。

深井 そうですね。

寺嶋 私みたいなフリーランスだったり、相手の方と直接お仕事受けてる場合の未払いはどうなりますか。例えば、私がなんかのライブに出るじゃないですか。で、そのイベンターさんと直接やり取りをするとして、そのイベンターさんが払ってくれないっていうのは、私はそのイベンターさんに対して労働者じゃないですよね。とかっていうのはどうなるんですか。

深井 これ、イベンターとの間でどういう契約になってるかによりますよね。出演委託契約を多分結んでいると思うんですよ。

寺嶋 でも、メールでの依頼とかですよ。いちいち署名とかしてないです。

深井 うん。だから、「契約書がなくても契約は成立する」。

寺嶋 そっか、そっか、ですよね。

深井 うん。第1回でやった。

寺嶋 そうですよね。

深井 じゃ、出演依頼の時に「いくらで払いますので出てください」って言われたことが証明できればいい。

深井 そういう合意がされてることが証明できれば、そういう契約が成立したということは証明できるので。それに基づいて、契約上の義務の履行を求めるっていうのが、その場合に行うことかなと思います。

寺嶋 それ、「ギャラの相談とか後ですよ~」とか言われてたら?

深井 それだとちょっと困りますよね。だから、合意が契約の根本なので、金額の合意をしてないってことになると、じゃあ一体いくらなんだということになってしまうのでは。なかなかその証明するのが難しくなっちゃいますよね。

寺嶋 じゃあ、やっぱり最初に条件はちゃんと聞いて約束しとかなきゃダメですね。

深井 だから、そうですね、出演した後に契約書を巻くとか、出演した後に金額なしにするとかって、本来おかしいんですよ。

寺嶋 でも、ありますよ。

深井 うん、僕もよくあります、それ。

寺嶋 「赤字だったらあんまり払えないけど、黒字だったらいっぱいバックするからね」みたいな出演依頼の時あって、「これは…?」って思いますけど、結構それはまかり通っちゃってる業界かもしれない。

深井 そうですね、僕もアイドルじゃないですけどね、取材とか。そういう時の取材料とかって結構後付けで聞かされますよね。

寺嶋 「これお金もらえる話だったんだ!」って後からわかる時とかあります。

深井 ありますよね。

寺嶋 ありますあります。なんかそういうの最初に話すように自分も気を付けなきゃいけないし、全体そうなっていくといいのになって思います。

深井 そうですね。

寺嶋 めっちゃいろんな事例聞いてきましたけど、じゃあ、いざ裁判になりましたとなった時、どのくらいかかるんですか。期間もお金も。

深井 期間に関しては、裁判の難易度とかにもちろんよるんですけどね。さっき言ったケースで言うと、証明しなきゃいけないことが結構多かったので、そのタイムテーブルとか読み解いて分析してるのに、結構時間かかるの。

寺嶋 それはそうですね。

深井 受けてから解決まで1年半。

寺嶋 わあ!

深井 かな。

寺嶋 その1年半の間、ずっと「解決するかな」って思いながら暮らすの嫌ですね。

深井 そうですよね。基本的にはやっぱりその間すごく精神的に負担ですし、やっぱり労力もかかるので、大変かなと。で、もう1個のケースは、それは単純に最後の月の辞める最後の月の売り上げにかかるお給料もらえなかったケースなんですけど、それはですね、これちょっと特殊なんですけど、相手が裁判に来なかった

寺嶋 えー!?なんで!?

深井 わかんない。それはほんとにわからない。

寺嶋 来ないとかアリなんですか。

深井 別に裁判来る義務はないので。

寺嶋 そうなの!?

深井 うん。ただ、来なかったら、「相手が言ってる主張を全部認めたとみなす」っていう、そういう条文があるので…

寺嶋 全面降伏ってこと?

深井 になっちゃうので、うん、行かないっていう選択肢は普通はないんです。だから、行く義務はないって言いましたけど、その条文があることで、もうほぼ、行くことを強制されてるようなもんなんですけど。だけど、来なかったんですよ。

寺嶋 ってことは、勝訴ですか?

深井 うん。こっちが言ってること全部認められたので、こっちの言ってる金額、満額。いや、僕、ちょっとね、そのケースはちょっと証拠弱いなって思ってたケースなんですよ。「これだけ売り上げてたのだから、このパーセンテージをかけた、これだけのお給料をもらうべきだった」という主張なんですけど、「これだけ売り上げたはずだ」っていう、その売り上げのデータが、ちょっと信憑性がない。

寺嶋 そのデータを持ってるのはきっと運営側ですもんね。

深井 そうそう、だから裁判の過程で裁判官に言って、運営が持ってるから出させてくれと、出すように指示してくれと言おうかなと思ってたんですけど、

寺嶋 まさかの、来なかった!

深井 来なかったんで、こっちが言ってる売上額が全部認められことになっちゃって、こっちの言い値通りの金額で認められました。

寺嶋 それ、認められた後、来なかったその人は、ちゃんとお金払ったんです?

深井 っていう話になりますよね。

寺嶋 うん、なんかそんなとこ来ないような人、お金も払わなさそう。

深井 だから、これがね、よく聞かれる、「裁判に勝ったら必ずお金って払ってもらえるんですか」という問いになると思うんですけれども、ちゃんと来てもらった場合はね、1つ目のケースは、さっきから言ってる、タイムテーブルとかたくさん分析した方については、これは和解で終わったんです。で、和解ってのは、「これで終わりにしましょうね」っていう、双方の合意ですから。基本的に、払うことを前提にしてるものですよね。

寺嶋 はい。

深井 だから、それはきちんと払ってもらいました。

寺嶋 よかった!

深井 うん。で、もう1個の方ですよね。これは判決が出たので、で、こっちの全面勝訴の判決ですので、当然、向こうからしたら、争う暇もなく、争う機会もなく出た判決だってことで、当然、従わないですよね。

寺嶋 うん???

深井 だから、払ってこないということになりました。でも、これはね、一般論ではなくて。普通は…普通ね、ちゃんと相手が出頭して、弁護士がついて、弁護士が訴訟活動して、戦って、それでも負けちゃったというケースであれば、普通は払いますよ。普通はね。

寺嶋 そうですよね。うん。

深井 もちろん、不服があれば、控訴して、高等裁判所に行くとか、そういうことはしますけど、今回のあのケースは、相手が来なかったというケースで、自分から払ってこなかったんですよね。当然ね。

寺嶋 となると、どうなるんですか。

深井 判決はね、ただの紙なので、判決を持って「払え」って言ったら強制的に取れるものじゃないんですよ。

寺嶋 そうなんだ!

深井 うん。ということで、その判決が出た後に、その相手からお金を回収するにも、またちょっと手続きが必要になる。

寺嶋 なんでさ~そうやってさ~やられた方が大変な目に遭うんですか~~~って毎回言ってる。

深井 それがいわゆる強制執行という制度。

寺嶋 差し押さえ(゚ω゚)

深井 差し押さえ。そうですね。差し押さえとちょっと意味合いが違うんです。

寺嶋 違う?

深井 うん。執行をかける。

寺嶋 執行とは…なんか、お家取られちゃったりするやつ?

深井 そうですね。その人が持ってる財産を強制的に取る。それが強制執行。それが土地だったり。家だったりしたら、それを差し押さえるっていうのが、その執行の1つの内容。

寺嶋 なんか紙張ったりしません?家具に。

深井 うん。そういうシーン見たことあるかもしれない。

寺嶋 それ、本当ですか?

深井 あのね、家具は、その人の生活に最低限必要なものは、それは差し押さえできない、とっちゃいけない。

寺嶋 骨董品とか?

深井 そういう、生活に必要がないけれども、金目のものがあったら、それは取られちゃう。

寺嶋 そうなんだ。

深井 うん。だけど、今言った骨董品とか家具とかってね、法律用語で「動産」って言うんですけど…

寺嶋 動産!!!

深井 不動産じゃなくて。

寺嶋 動くから!?

深井 動くから。

寺嶋 すごい(゚ω゚)‼︎

深井 すごいかな。

寺嶋 そうなんだ。

深井 さっき言った土地とか、家とか、不動産。それ以外の動く物体、物質、これ全部動産。で、ここにある、このね、スマホも動産だし、それはいいんだけど、で、動産を差し押さえても、お金になんないことが多いんですよ。このスマホ、じゃ、仮に売ったとして、いくらになりますか。っていう話。

寺嶋 そうですよね。

深井 うん。数千円でしょ。で、そういうものは、基本的には差し押さえの対象にならない、あんまり。

寺嶋 ほんとにめっちゃ高い絵とかじゃないと(ダメ)?

深井 そうそう。そういう絵画とか、高い…なんだろう、宝石とか貴金属。

寺嶋 でも、そんなの持ってない人だっていっぱいいますよね。

深井 そう。だから、動産を差し押さえるって、あんまり意味がない。

寺嶋 そうなんだ。

深井 うんうん。だから、その人に財産があるかどうかってのをまず調べてからじゃないと、あんまり執行は意味がないです。だから、まず、不動産持ってるか。土地建物持ってるか。持ってなかったら、その人が他に何か財産ないかなって探して、例えば口座持ってないか。

寺嶋 そんなの調べられるんだ!?

深井 調べられる。うん。で、銀行口座は1番簡単ですよね。財産としては、銀行口座持ってたら、その銀行口座を押さえる。その中に入ってる預金をもらっちゃう。

寺嶋 うーん!?もらうのは、「ください(゚ω゚)」って言ったら、くれる???

深井 だから、さっき言ったように、強制執行をかける。強制執行も裁判所がやります。

寺嶋 へえ!

深井 裁判所に判決文持ってって、「この通り執行かけてください」と。「執行の対象はこれです」と口座を示して、裁判所の執行センターに行くと。

寺嶋 「執行センター」!?

深井 うん。執行センターってのがあり…

寺嶋 すごそうですね、そこ。

深井 うん。そこに行くと、持っていくと、書類をね。ちゃんと要件が整っていれば、その書類がちゃんと整っていれば、執行をかけてくれるということになりますね。裁判所の権限で、その口座からお金を勝手に取って、振り込んでくれるってこと。

寺嶋 勝手に!?

深井 勝手に取ってっていうか。勝手に取るわけじゃないけどね。

寺嶋 その銀行に連絡して…みたいな。

深井 銀行に書類がいって、「この人が持ってるこの預金の中のいくらいくらは、もう差し押さえたから、こっちの人にあげてください」と。

寺嶋 なんと!

深井 それはできます。

寺嶋 そうなんだ!

深井 うん。で、これは、預金の場合ね。預金もわからんという場合、どうすればいいんですかと。で、確かに、そのアイドルさんたちも、その会社が持ってる預金とかわかりませんということだったんで、そういう場合は、その会社が他社に対して、何らかの請求権を持っていないかを調べます。

寺嶋 例えば、「他の会社から100万円ギャラをもらう予定がありそうだぞ」とかがあったら、「そのギャラをこっちに回してね」みたいなこと!?すごい!

深井 それができます。例えば、A社を相手に裁判やってて、A社に勝ちました。とはいえ、A社から払ってもらう権利があるんだけど、A社に全然蓄えがありませんと。一方、A社はB社に対して、ギャラの請求権100万円あります。B社はA社に100万円払わなきゃいけないということになってた場合には、B社に対して、裁判所から書類がいって、「その100万円、もうA社に払わないでくださいね。」。

寺嶋 えー!すごい!

深井 うん。「アイドルさんに払ってください」っていう風に命令が行きます。

寺嶋 すごい!そうだよね。だって、A社に払っちゃったら、A社またそのまま持ってっちゃうかもしれないもんね。

深井 で、その100万円のうち、アイドルが請求していた分、アイドルさんがもらえる。

寺嶋 へえ!すごい!

深井 っていう制度が。

寺嶋 すごい!でも、それ全部なかったら?A社、何にもなかったらどうするんですか。

深井 それはちょっと諦めるしかない。

寺嶋 やっぱそうなんだ。

深井 うん。でもね、アイドル事務所だったら結構いろいろやってるじゃないですか。ちゃんと動いてる事務所だったら。例えばなんだけど、僕がやったケースだと、まずやったのがファンクラブの…

寺嶋 そっか!

深井 ファンクラブの運営をアイドル事務所がやってるんじゃなくて、どっかの他の会社に委託してるケースが多いんですね。

寺嶋 そうですね。

深井 そうすると、ファンクラブの会費って、その委託会社にまず入るんですよ。

寺嶋 そうだ。

深井 うん。で、その委託会社がもらって、残った分をアイドル事務所に渡すということになると、そのアイドル事務所は、その委託会社に対して、そのファンクラブの会費もらう権利あるじゃない。

寺嶋 そうですね。

深井 それを差し押さえ。

寺嶋 なるほど。

深井 うん、それやりました。

寺嶋 じゃ、手段はないわけじゃないんだ。

深井 そうね。で、あとは、やったのはtalkportっていう…

寺嶋 私もやってますよ!

深井 やってたね。うん。そのtalkport運営会社に対して、その売り上げを請求する権利も差し押さえられました。

寺嶋 そっか。私、全部自分でやってるから、間に(事務所が)入るとかいう感覚がなかったけど、普通はtalkportもファンクラブも、間に事務所が入ってますもんね。

深井 で、それで、その2つをやって、なんとか、そのアイドルさんたちが請求した金額、全部回収できることになった。

寺嶋 よかった。

深井 うん。それ以上はやってないんですけど、もし、それでも足りなかったら、次の標的としては、チケットの販売でした。

寺嶋 livepocketだ!ぴあとかeチケットとか!

深井 それはなんていうところにしてたかわかんないけど、

寺嶋 たくさんあります!いくらでも。チケットサイト。

深井 事務所が年に1回ワンマンライブをやるから、そのワンマンライブの時期に、チケット販売サイトに対して執行をかけると。そうすれば結構ガッポリ入ると。

寺嶋 なるほど。

深井 ということを次の手段として考えてました。

寺嶋 おお~。その発想は全部なかったです。

深井 だから、そういうことをアイドルさんと相談して、どこに対してどういう権利、権限あるかなっていうのを話し合って決めるんです。

寺嶋 なんか、いい話ではないじゃないですか、未払いのことだから。ウキウキ聞いて恐縮なんですけど、知ってる会社の名前がいっぱい出てきて、ちょっとテンションが上がって、「そういうところが協力してくれるんだ」って思ったら、ちょっと嬉しい気持ちになった。

深井 協力したというよりね、

寺嶋 巻き込まれたというか?

深井 従ってるだけだけどね。

寺嶋 そっか。でも普通の会社はそうやって従うんですね。

深井 そうですよ、普通は。ということをやって、ようやく未払いを全額回収すると。

寺嶋 そういう期間はどのぐらいかかったんですっけ、結局。

深井 いや、だから、そのケースは相手の社長来なかったんで。別に大丈夫なんですけど。もし、さっき言った1年半かかったのが、判決まで行って相手が払ってこないだったら、多分もう半年ぐらいはかかったんじゃないかなと思うんで、2年ですかね、全額回収するまで。

寺嶋 大変だ。その分の時給も発生させてほしい。

深井 でも、遅延損害金発生するんで。

寺嶋 なんですかそれは?

深井 利息みたいなもんです。本来払うべき日から、払うのが遅れたら利息つくんですよ。

寺嶋 そうなの!?

うんだ、例えば、このお給料は、今日、6月、6月10日に払うべきだったと。だけど、未払いが続いて、実際に払われたのは1年後ですとという風になったら、その1年間分の利息がつく。

寺嶋 そうなんだ。それ、労働者だからですか?

深井 いや、全員つきます。

寺嶋 そうなの!いやはや知らなかった。

深井 うん。だから、そのアイドルさんたちも一応利息ついて、本来払われるべきお給料プラス数万円は回収したということで。

寺嶋 いや、大変だな。大変だけど、やっぱりちゃんとやらなくちゃいけないことではあるな。

深井 うん。だから、その人たちね、結構よく頑張ったなって思いますよ。その2つ目の例はね、裁判までして、裁判までやって30数万でしたけど、最後まで付き合ってくれて満足して嬉しそうにしてたんで、良かったなと思いましたけどね。

寺嶋 でも、金額じゃないですからね、そういうのってね。私、ちょっと前に、困ってることをたまたま知り合いの社長さん、社長業をやってる人に話をしてて、世間話で「こんなことあったんですよね」みたいに言ったら、「従業員の人にお金を払うのが1日でも遅れるっていうのはものすごい大変なことだから、絶対に自分は経営者としてそれはやっちゃいけないと思ってる」って言ってて。で、「1日だとしても遅れちゃいけないし、たとえ3000円とかだったとしても未払いがあったらいけないって思ってる」って、なんか毅然と言ってたのを見て、こういう経営者の人が増えるといいなってすごく思ったんです。

深井 普通そうですよね。本来そうあるべきなんだ。

寺嶋 そうですよね。なんか「私ぐらいの金額でごちょごちょ言ってもしょうがないかなと思って…」みたいなことを言ってたら、「3000円だったとしてもダメです」って言われました。うん。100円だったとしてもダメだ。

深井 確かにね。100円でも3000円でもね、未払いがあったらそれは法律違反になりますんで。

寺嶋 そうですよね。でも多分その感覚があまりない人が多いんだろうな。なんでだろうね。うん。というわけで、今回は未払い賃金とその取り返し方というか、そういうことが発生しちゃった時にどうやって対処していったらいいのかっていう話を伺ってきました。大変だけど無事に今例に上がった2件は解決してよかったですね。

深井 そうですね。

寺嶋 で、この話は多分アイドルじゃなくても、普通にお勤めされてる方とかフリーランスで働いてる方でも関係があったお話かと思いますので、何か参考になったら嬉しいです。

深井 はい。

寺嶋 というわけで皆様ありがとうございます。この番組のご感想は例によってハッシュタグ「アイドルと法律」でポストツイートしていただけますと嬉しいです。
また、この番組でのお話したことはのちにnoteで書き起こし、記事として公開します。noteには補足情報とか、あとは収録を終えた私と深井先生の感想なども載せておきますので、ぜひそちらもチェックしてください。
深井先生に相談したいこと、あるいはこの番組で匿名で相談したいことなどなどありましたら、ぜひ深井先生にDMを送ってください。もしも私と話したいっていう方がいらしたら、infoのメールアドレスにメールをいただいても大丈夫です。

それでは、今回もありがとうございました。次回のテーマは個人事業主の心構えです。
次回もどうぞお楽しみに。ここまでのお相手は、ゆっふぃーこと寺嶋由芙と、

深井 弁護士の深井剛志でした。

深井・寺嶋 ありがとうございましたー。

 





以下、有料部分では、アイドル以外の事例もご紹介しながらの深井先生からの補足情報、ゆっふぃーからの、個人事業主として働く中で、「会社にお金を払ってもらう」ことのハードルについての実感をお読みいただけます。


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