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「卒業」って、人生で何回あるんだろう


冬の寒さが嘘のように暖かかった先日。
近所のショッピングモールを、卒業証書を持った学生たちが歩いていた。1歳の下の子を乗せたベビーカーを押しながら、その子たちとすれ違う。その時ふと、自分の卒業式はどんなだったか、と考えた。

思い出すのはを高校でも大学でもなく、中学の卒業式だ。
式は淡々と終わり、そのあと、クラスに戻った時の担任の話……それと、歌がとても記憶に残っている。

式場から教室へ戻り、最後の言葉を述べたあとのこと。担任の先生は教壇に立ったまま、松任谷由実さんの「卒業写真」を歌ってくれた。
お父さん、という雰囲気の先生で、どちらかというと寡黙で、人前で喋るのは先生になって何年も経って、ようやく慣れたのだと言っていた。
その先生が、耳元を赤くしながら、歌詞の一言一言をつぶやくように、あの歌を歌ってくれた。
教壇に立つ先生と、規律の姿勢のままの生徒。教室に、低い声のメロディが響く……

その歌の途中で思わず私は泣いた。
まわりからも啜り泣く声が聞こえていた。

卒業式は人生の前半にたくさんある。
学習の過程の全てを終える「卒業」はおそらく大人の私にはもうない。
じゃあ、何かから「卒業」することは人生であと何回あるんだろう。
そう思うとまず思い浮かんだのは子育てだ。

大人になった今、当時はめんどくさくて行きたくないこともあった学校生活を懐かしく思い出せる。
当時はガラスのかけらみたいに鋭く感じたつらい日々も、時間が経つうちにいろんな記憶や日常生活たちと混ざり合ったりぶつかったりして、いつのまにか角がとれた思い出になっている。
2児の子育てもいつかそうなるのだろう。

子育ては大変だ。6歳と1歳の育児は感情が嵐のように揺さぶられる。
我が子の笑顔に相好を崩したかと思えば、鬼のようにイライラしてしまったり。置いたら泣く下の子を左手で抱きながら、右手で家事をし、口と目は上の子に向ける。そんな感じで、毎日が溶けるように過ぎていく。

それでも、あと20年もすれば子育てからは「卒業」する時期が来る。
いつか夫と2人で写真を捲りながら、この壮絶な毎日を懐かしく思い出す日がやって来る。
そう思うと、寂しいような、楽しみなような、複雑な気持ちになった。

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