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星空と太陽

 エタンセル王国は「七夕祭り」の真っ最中だった。発起人は、他でもないこの王国の王女プラチナ姫である。自らのポケットマネーから費用を捻出し、盛大な祭りを催していた。

 国の大通りには様々な屋台がひしめき合い、吹き流しや網飾りが丁寧に飾り付けられ、時折ひらひらとそよ風に舞っている。中央の広場には、短冊を書くスペースとそれを飾る笹が設置されて、賑わいを見せていた。
 七夕という文化には馴染みがなく、最初こそ戸惑った表情を見せていた国民たちも、プラチナとそれに付き従う四天王が説明役を担ったおかげで、今では一人ひとりが思い思いの願い事をしたためたり、屋台の食べ物を楽しんでいる。

 (短冊に願い事ね……ふふ、実にくだらないわ)
 マギアは、会場のあちこちに飛び回る姫の身辺警護を任され、現在は束の間の休憩時間だ。飲み物を飲みながら、思考に耽る。

 短冊に願い事を書く暇があれば、実験をして、データを取る。自分が納得のいく結果になるまで、何度も何度も。薄っぺらい紙切れや神頼みより、自分で掴み取るしかない。

 ――ある日の勉強会のことが思い起こされる。他国の文化について、教えていた時にプラチナはこう言っていた。

「タナバタ……いいですわね! 一人ひとりが願いを込めて短冊をしたためる……それで国民の皆さまが、明日に希望を繋いでいくのですわね。よし、わたくし、決めましたわ! タナバタ祭りを催しますわ!!」
他国の七夕という文化を知り、感銘を受けたプラチナは迷うことなく自費を投じて祭りを企画したのだった。国民のために何かをしようとする時のプラチナの行動力は想像以上に大きい。あっという間に四天王を始めとして、周りの人を巻き込み、開催までに漕ぎ着けたのであった。

 (くだらないけれど……。でもお姫様らしいわね)
ふと、国民が多く集まる広場に目を向ける。
笹に短冊を括り付ける民、短冊に何を書こうかと思案している民、屋台で振る舞われている食事に舌鼓を打つ民……。どの民も笑い、穏やかな顔をしている。姫が国の為を思ってする事には間違いがないことは、この光景を見れば明らかだった。

 「書いてみようかしらね」
マギアは短冊とペンを手に取った。
短冊に願いを込めることはくだらない。その考えは変わらない。しかし、姫の純粋な願いのこもった今回の祭りを見て、マギアも、少し心が揺れたのだ。神なんてものがいるなら、どうか姫の願いだけは――。

 「あっ……こ、ここに、いたんですね、マギア」
笹に括り付け終えると、四天王の一人、レインテイカーが駆け寄ってきた。そろそろ警備の交代の時間だろうか。
「お願いごと……書いてたの?」
「ええ。たまにはいいかと思って。交代しに行くわね」
カツカツとヒールの音を響かせながら、持ち場へとマギアは戻って行った。

 「戻ってきましたのね、マギア! ほら、見てくださいまし! 星がとっても綺麗ですわ!」
 夜空は雲ひとつなく、星が青や白、大小様々な輝きを見せながら瞬く。しかし、どんな星よりも今目の前にいるプラチナこそが一番美しく、一番守りたい存在だ。今のマギアはそう思うのだ。
「ええ……、とても綺麗ね」
マギアは、夜空を見上げるプラチナを見て穏やかに微笑んだ。

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