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逆噴射小説大賞2020に応募したもの

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タイトル通りの物です
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#ホラー

人食いの怪物は紺色の月の下で啼く

人食いの怪物は紺色の月の下で啼く

軌道エレベーターから見下ろした“仮寓の星”の地表は白緑のオーロラの夜に染まっていた。窓に映るおれの黄色と白の毛に包まれた長い耳の先に、おれの目の色と同じ紺色の月が3本のリングを纏って地平線の上に浮かんでいる。
あれが浮かんでいるってことは今は深夜か。
「帰りがだいぶ遅くなってしまったなあ」

円柱型の住宅が立ち並ぶ街をおれは一人歩く。3輪の紺色の月が真上に輝いて足元を照らし、神秘的な影を作っている

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黒髪を抱いて沈む

黒髪を抱いて沈む

高校生の高濱夏帆が、自分には潤一郎という10歳年上の兄がいたことと、その死を知ったのは同時だった。
母親が違う兄は夏帆たち一家を避けていたからだ。

いま夏帆は葬儀会場の親族控室でひとり棺のそばにいる。棺の前の渦巻き状のお香は細い煙を漂わせている。
初めて見る兄は花に囲まれて静かに眠っているように見えた。それでも土気色の顔と色のない唇が彼が死んだと突きつける。兄は死後数日経って発見されたらしいがと

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