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いつからだろう、常に視線を感じるのは。

白石は人生をジェットコースター、いやトロッコ列車でゆっくりと振り返った。

小学校を卒業した頃には180cmを通過した。

中学時代は野球部とバスケ部両方に所属する。

野球部ではピッチャーを任されたが、現在もプロで活躍する山之内 守 擁する富山第十二中学に3対1で惜敗し、グローブを置いた。
また、バスケ部では強豪高校のスカウトが遊びに来るほどには活躍していた。

どちらの競技に専念するか。という周りの大人の視線をシャットダウンし、富山第八商業高校に入学、マネージャーに一目惚れし卓球部に入部した。

あれほどまで持て囃された中学生時代とは違い、完全に実力主義の世界だった。
卓球に身長はさほど必要なかったからだ。

だからこそ初めて熱くなれた。

卓球は1対1の個人競技だから、練習すればする程、試合に勝つ喜びを知る事が出来た。

苦労もたくさんした。
サーブの時に長い腕が邪魔をした時は折りたたみ傘ぐらい畳んだ。
レシーブは、足をめいっぱい折り曲げ卓球台の角で脇腹を抑える事で、
窮屈で不気味なフォームが完成した。
おかげで高2の春から脇腹傷ができ、その傷口は開きっぱなしだ。
未だにカブトムシが良く集まる夏の木の樹液ぐらいは血が出続けている。

つい先日の健康診断で分かったが身長はまだ伸びていた。身長2m6cm、体重135kgだった。

脇腹から血が出ている診断を受けた。
それはみたらわかんねん。

卓球部の恩師である元顧問の佐々木先生に別れの挨拶をし、クラブ「なでしこ」のEVを降りた瞬間、炊飯器を持った真っ赤な男が視界に入った。あちらの視線を感じたが見ないようにした。いつもの事だ。
酷く酔っているし、炊飯器を持っている。
普通ではない。
男の肩と脇腹がぶつかってしまった。
真っ直ぐには歩いていたから俺に非はない。

なるべく振り返らないように、先へ急いだ。

ふと、どこかで会った気もしながら。

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