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呼称

妻が自分の夫のことを他人に言うとき、どのように呼称するかはしばしば問題になる。
私の友人・知人女性たちはだいたい相手のことを、
「旦那(ダンナ)」
「旦那さん」
「夫」
と呼んでいる。
名前呼び(●●くん)の人もいるが、それは私が彼女の友人で、彼女の夫のことも知っているからだ。

しかし問題になるのは別に「夫婦」だけではない。
うち(というか、私の頭の中)でも問題になっている。
ハカセと「ハカセと同居している生活スタイル」をどう呼ぶかである。

先日、同僚の先生(同年代)といる際、自分のことを開示しておこうと思い、そして困った。

「実は彼氏と同棲してるんですよー」

何これ。
もう少しマイルドにすると

「彼と一緒に住んでいるんですよー」

・・・・・・・・。

ちなみに私たちは結婚(法的婚姻)を前提に一緒に住んでいるわけではない。
ただなんか一緒に住み始めてしまったのだ。勢いである。
経済的合理性とかでもない。勢いである。

日本語には「結婚していない異性愛の女性が、一人この人と決めた人」のことを言い表す言葉が「彼、彼氏」しかない。恋人は書き言葉である。口語ではない。
そして「結婚していない男女が同居する」ことを呼びならわす単語は「同棲」しかない。

まず呼び方。
「彼、彼氏」という呼び方が苦手だ。軽薄である。しかし他に単語がないので仕方なくそれを使っている。
しかし四十過ぎて彼氏でもなかろうと思う(四十過ぎているのは私だけだが)。

一番フラットな呼び方は「パートナー」だろうか…。
しかしどうにも気合いが入りすぎている気がして恥ずかしい。

作家・森瑤子は「情人」という言葉を使っていたが、そんなもの凄い単語を使うほどの相手でもないし…。

四十過ぎて「同棲」もなかろうと思う(四十過ぎてるのは私だけだが)。
同棲は、二十代の男女が神田川の小さなアパートでするものである。という思い込み(偏見)がある。ちなみに神田川は早稲田大学のそばを流れている。花見の名所である。

もういっそ「同居人、共同生活」というのが一番実態に近い気がしてきた。

名づけにくいこと。別にそれで生活しづらいわけでも、不利益があるわけでもない。
普通とは少しだけ違う。
そういうことが社会にはたくさんあるのだろう。

常にマイノリティ目線であれ…などと言いたいわけではない。

大多数の「ふつう」の暮らしがあること自体は事実である。

ただ私は、日本語で名指せないものとわざわざ名指すものに、興味があるのだ。



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