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45期の始まりにあたって。量的成長から質的成長への試行錯誤とか

木村石鹸は6月20日が期末なので、今週から新しい期の始まりです。株式会社になって45年目、45期の始まりです。(創業からは今年96年)

44期の下期(2019年12/21~2020年6/20)は、新型コロナもあり、会社としても今まで味わったことのない苦しさに直面しました。僕らの場合は、売上の20%を占めてた中国向けの販売がパタリと止まり、1月~4月は実質、中国売上が0になったわけです。1~3月は、その影響が大きく、毎月かなり大きな営業損失を出しました。

3月後半ぐらいからでしょうか。本格的になったのは4月の緊急事態宣言以降ですが、自粛、巣ごもり消費が追風になって、OEM、自社直販含め、生協向け、通販向け、EC向けの家庭用洗剤の需要が急速に高まり、一転、対応しきれないオーダーがやってくるという有難い展開になりました。

ただ、一方で、容器や原料なども入手できないものが出来きて、製造キャパは対応可能だけど、資材不足で対応できないというアイテムもかなりの数に及びました。

それでも、現場はあの手この手を駆使して、出来ること最大限対応していってくれました。おかげで、4月、5月、6月となんとか大きく業績を回復させることができ、結果、終わってみれば売上的には昨年で108%ぐらいでの仕上がりになりました。3月中旬ぐらいまでの状況から考えると、出来過ぎなぐらいの結果です。

そう。なんとか木村石鹸は前期も「成長」できたわけです。でも、今回は素直にそのまま成長を喜べない自分がいました。ある種、数値的なところでの成長、つまり「量的な成長」は果たせたけど、これは良かったんだろうかと。「質的な成長」みたいなところは出来たんだろうか。そんな疑問が頭を巡るわけです。

人間でいうと、骨とかが十分育ってないままに成長していってるような、そんな感じがしたのです。このまま「成長」を旗印に事業を進めていって大丈夫なんかいな、と、そんな懸念が頭を過るわけです。

量的成長から質的成長へ/Tシャツのイージーの場合

まだECなんて言葉もなく、ネットでモノが売れる(買える)ということさえ信じてる人がいなかったような、そんなネットの黎明期から、ネットでTシャツを販売しているのが、Tシャツ専門店イージーです。

イージーの岸本社長とは、前職の創業当時からのお付き合いになるので、もう25年、26年にもなるでしょうか。手掛けている事業や戦略は違うけれども、ネット黎明期からその市場で共に戦ってきた同士として(ちょっと失礼な言い方ですが)、また、商売人として、岸本さんの経験や発言にはすごく影響を受けてきましたし、また、励みになることも多く、僕にとっては、「兄貴」的な存在です。(なので、すいません。「社長」とは書かず、「さん」にしてます)

実は、岸本さんには、木村石鹸に戻ってから一度、うちの社内勉強会の講師をお願いしたことがあります。商売人としての哲学を、皆に学んでもらいたいと思ったからです。

その時にお話し頂いた時のメモを最近読み返してて、改めて、すごく大きなヒントというか勇気を頂けました。

岸本さんは、1995年からネットでのTシャツ販売をスタートさせ、1997年に独立ネット販売専業のイージーを起ち上げられました。すぐ売上は右肩あがり、順調に伸びていったそうです。

仕入れもどんどん広げることで、2008年には、売上は8600万円になりました。ところが、売上が過去最高を記録する中、この決算期に過去最大の赤字450万円が出ました。岸本さんは、これでは駄目だと、180度方向転換を図ります。それまでは取り扱い品目を増やすことで売上を上げ、売上拡大に伴い、スタッフを雇う、という形で「成長」を遂げてたわけですが、まず、商品アイテム数を減らし、自社ブランド比率を高めるという戦略に切り替えられました。そして、スタッフを雇わず、基本、岸本さん自身がワンオペで運営する形へとシフトさせたのです。

戦略転換3年で2011年決算売上は半分以下の4200万円まで落ちたそうです。しかし、利益はしっかり出て黒字となりました。当時、お話を聞いた時は、利益率は8%を越え、毎年安定して利益を出し続けている、ということでした。

岸本さんは、その時の戦略をこんな風に書いてました。(これは別のコミュニティ内で岸本さんが書かれてたもの)

1)即日発送をやめる
 仕入れ品の見込み在庫を完全になしにする(即日発送をやめるにはその必然がある)
結果的に完全無しまで3年かかったけどナッシングになる/量、金額にもよるが、ようは手持ち在庫はどんどんキャッシュになっていくので,意外にも?資金繰りは問題無い

2)安くたくさん売る ことをやめる = 納得いただいたうえで高く買っていただける品=自社製品にどんどんシフトする

3)つまり、早く安くをやめる
このことで早く安くを望むお客様はどんどん減っていく これが売上に大きく作用するが、利益額はとうぜん上がる

4)早く安くを望まれるお客様から嫌われる勇気を、持てるかどうか。ここが難しく、たいへんなところだ。

5)けど、やらなきゃ(会社と社員を)守ること=会社の成長はない

6)借金額を成長させたい?笑 か 会社を成長させたいか。こんなところですね^^ 

沢山売ることを止め、速く売ることを止める。安く売ることを止める。

これはある意味、「量的な成長」を追わず、「質的な成長」に目を向けるということだと思います。

補足しておくと、僕の中での「質的な成長」とは、企業の持続性を高める要素をより強化にしていくこと、と、捉えてます。また、岸本さんの場合は、究極ワンオペに行きつかれたわけですが、社員が安心して働け、幸せな生活を送れるようにする、というのも質的成長としては重要な要素だと思っています。

(もちろん、企業という存在の成り立ちを考えると、ある目的のための集団でありプロジェクトだということも言えるので、その意味では目的達成すれば「解散」というのもありなのかもしれません。が、しかし、会社は、事業を展開していくなかで、どんな形にせよエコシステムを必要として、それを作り出していきます。自社社員だけでなく、エコシステム内の企業、その企業が位置する地域も含めて、一つの会社に連なる人やモノ、地域は、非常に多岐に渡ります。なので、目的達成したら解散という元来のプロジェクト型、目的志向型の会社という枠組みを、今の会社の在り方に適合するのは無理があるんじゃないかとも思ってます。)

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むやみやたらに売上を追うのではなく、お付き合いしたいお客さんをしっかり見極め、身の丈を越えた商いをしない。自身が提供する価値(岸本さんの場合はTシャツ)に正面から向き合い、徹底してその価値に磨きをかけて勝負する。

ここには書いてませんが、イージーでは、卸も一切しないというポリシーを貫いてられます。卸をするということは同じ商品で複数の価格が存在することであり、これは消費者への不誠実だと岸本さんは断言します。

単に自分たちが付き合いたいお客としか付き合わないということではなく、そうやってお客さんを言い方は悪いが「選別」している以上、付き合ってくれるお客さんに不誠実は絶対しない、という強い意思を持ってるのです。

この辺の一貫したポリシーや覚悟みたいなものがあるからこそ、イージーには固定ファンがついてるし、商売が成立しているのだろうと思うのです。

ちなみに、イージーの販売するTシャツは、本当に丈夫なんです。丈夫すぎて、何枚か買うと、何年も使えてしまうので、商売的に見ると、リピートし難さになりそうな気がしてます。僕も、何年か前に黒Tを2着買わせてもらったきりなんですが、この2着はまったく伸びも色落ちもせず、今もバリバリ現役です。

そういえば、イージーの事例は、話題の佰食屋さんの事例にも通じるものがあると感じました。佰食屋さんの哲学も、まさに量的な成長よりも、質的成長を目指すというものだと思います。

1日百食に限定することで、残業を無くし、スタッフのモチベーションを維持、食材の仕入れの効率化、フードロス0、オペレーションの単純化、経営も簡単へ...   等々。

売上などの「量的」な成長を目指せば、当然、需要があるのだから100食以上販売するほうがいいし、お昼だけでなく夜も営業するべきです。しかし、「量的」な成長を追わないことで、佰食屋は「質的」成長を育んでるわけです。

イージーさん、佰食屋さんの考え方やポリシーは、これまで「昨対」で何%成長が当たり前、成長しないことは死を意味する、みたいな、ビジネスの現場でまことしやかに囁かれてたことに疑問を投げかけるものです。

結局、よく言われる「何をやらない」「何をやめるか」に行き着く?

量から質への転換において、一番重要なのは、何をやらないか、何をやめるかを決めることなのでしょう。

イージーにしても、佰食屋にしても、何をしない、何を止めるを明確にしたことで、自身が提供するものの価値をより明確にして研ぎ澄ませています。そして、その価値を武器に、ビジネスを組み立ててます。

量的な成長が第一に立つと、何をやらない/何をやめるは、後回しになるケースが多いのではないでしょうか。(僕自身がまったくもってそうですが) 

量的な指標は「売上」とか「利益」とか「社員数」とか数値として分かりやすく、見えやすく、そういうものが増える、ということが凄く良いこととして捉えられがちです。極端に言うなら、量的増加に繋がるなら、何でもいいじゃないかとなってしまいかねません。

質的成長を優先すると、時には量的成長を手放さないといけない場面があります。イージーでは卸をしないし、安く早く欲しいというお客さんを相手にしない。佰食屋は、どれだけ多くの人がそのランチを求めても1日100食以上を売らないし、夜の営業もやらない。「売上」を伸ばしやすいところで、あえて放棄することで、別の価値を得てるわけです。

この決め事には「覚悟」が必要です。

こんな長々としたエントリーを書きながら、実は木村石鹸では、何を止めるのか、何をしないのか、というところはまだ決めれていません。

強いて言うなら、価格競争が激しい量販店市場には参入しない、あるまとまった量を販売することでしか十分な粗利額を得られない低単価市場の仕事はやらない、ということは決めてます。

ただ、まだ十分じゃないなぁという気はしてます。まだ「覚悟」が足りないんですね。「覚悟」が足りないから、その裏替えしで、自分たちの「価値」を十分に磨けてないんです。ある意味、「両方」のええと取りをしようとして、どっちも中途半端みたいな感じでしょうか。

「量的な成長」だけに突き進んできたわけではないのですが、どうしても、ここ数年の行ってきた判断、決断のいくつかには、「量的成長」を取るがゆえに、「質的成長」については敢えて目を瞑ることがあったなと思っています。

今期(45期)からは、より明確に、「質的成長」とは何か、に向き合い、やらないこと、やめることを明確にしていきたいと思ってます。(と言いながら、まだ明確に出来てないのですが)

ということで、今期も精一杯頑張りますので、よろしくお願いします。

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