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歌舞伎町からのリアル脱出ゲーム

リアル脱出ゲームってあるじゃないですか。参加者が物語の主人公となって謎を解き、脱出を試みるゲーム。数年前から流行ってて、楽しそうだなって思ってたんですが20年も前にリアルリアル脱出ゲームをやったことがあったのを思い出しました。当時の記憶を思い出しながらノンフィクションでお送りします。

僕は当時20歳ぐらいのメタル系のバンドマンだったんですが、当時のメタル界隈はイケイケで、ライブはもちろん、その後の打ち上げがとんでもないんです。
ビールのピッチャーを一気飲みは当然で、鏡月(アルコール度数15度の焼酎)をボトルも一気、ひどいときには10人前ぐらいの大皿できたチャーハンも一気食いとかさせられてました。「させられてた」というのはメタル界隈では年上の先輩が言うことは神様で(というより悪魔)、「先輩の言うことは絶対!」だったんですね。なので、断ることは一切できなかったんですよ。いまなら大問題です。

なのでライブ以上に打ち上げは気合いを入れて臨むんですが、この日も先輩にウォッカをグラスで7〜8杯飲まされたぐらいで記憶はなくなり、気がついたら歌舞伎町のメイン通りのドンキの横にあるゴミ袋の上でほぼ半裸で目が冷めたんです。

行き交う人々に白い目で見られながら起きると、着ていたTシャツはビリビリになっていて、なぜか鼻血を出している。一体何が起きたのか、ゴミ袋の上で必死に記憶を遡ろうとするが何一つ覚えていない。そもそもなんで鼻血を出してTシャツがビリビリなのか。喧嘩でもしたのか誰かに絡んで殴られたのか、まったく分からない。

ハッと気づき、連絡を取ろうと携帯を探したがどこにもない。むしろ財布もない。ポケットに入っているのはグシャグシャになったタバコのみでライターもない。
なにがあった!!バンドメンバーにどうしてこうなったのか聞きたいのに唯一の連絡手段である携帯がない。なぜ僕はひとり歌舞伎町のゴミ袋に寝ていたのか。人はパニックが度を超えると二日酔いを忘れる、ということをこのとき知りました。

さて困った。連絡が取れないのも困ったが、もっと困ったことがある。Tシャツがボロボロで上半身裸なのである。着ていたTシャツは胸の真ん中でビリビリに縦に裂けててカーディガン状態。それだけでもキツイのに鼻血で真っ赤に染め上がり乾いてカピカピに仕上がっている。他者から見ると事件である。

Tシャツを脱ぐしかなかったが脱いだら脱いだで上半身裸である。歌舞伎町のど真ん中で。他者から見ると露出狂である。

これはヤバい。いろいろ考えることがあるがまず周りの目が痛い。とりあえず身を隠したい。これからどうするか考える前に人目から離れたい。
僕はボロボロのTシャツで身を包んで逃げるように歌舞伎町から走って逃げた。

早朝とはいえ、ここは新宿歌舞伎町。人がもっとも行き来する場所である。顔に血がついた男が歌舞伎町から向かってくる。近くを歩いている人からしたら恐怖でしかない。すれ違う瞬間、向かう先にいる人から悲鳴が聞こえる。
「違うんだ!犯罪犯したわけじゃない。これは事故なんだ」泣きたくなりながら頭で必死にそう叫ぶが思ってるだけなので伝わるわけがない。

西武新宿駅と新大久保に向かう小道に逃げ込む。ここならまだ人がこない。しかしどうしたらいいのか分からない。携帯もないから助けも呼べないし、お金がないからタクシーや電車に乗ることもできない。人間あまりにもテンパりすぎると冷静な判断ができない。今なら考えられる駅で電車賃を借りるとか、交番で状況説明して助けてもらうとか一切出てこなかった。このとき頭にあったのは「誰一人とも出会うことなく家にたどり着けるか」という難易度Sランクのリアル脱出ゲーム

しかし、ここで重大なことに気づく。
家の鍵がない!まさかのたどり着いても家に入れないという難易度SSランクにレベルアップ。自分が寝ていたゴミ袋のあたりを探せば鍵はあるのだろうか。いや待て、この状況であるかどうかも分からない鍵を取りにまた歌舞伎町のど真ん中まで行く勇気があるわけがない。「終わった」頭の中でその4文字が並ぶ。
体験型のリアル脱出ゲームならここでリタイアできるかもしないが、こちとら本当にリアル脱出である。リタイアなんかない。できるなら目覚めた時点で食い気味にリタイア宣言しておる。

もうホント最悪や。泣きたい。。絶望の淵に突き落とされた状態のときに一筋の希望を見出す。友達の家が一駅となりにある!!以前遊びに行った柴田くん(仮名)の家はたしかこの近くだったじゃないか!
本人がいるかどうか分からないがそんなことはどうでもいい。ないと思っていた希望があったのだ。藁にもすがる思いとはこのこと、もう他のことは考えられない。柴田くんの家までのリアル脱出ゲームに変更である。

距離は一駅分なのでそこまで遠くはない。遠くはないが、血だらけの半裸状態なのでなるべく人に会わないように細い道、いなさそうな道を通って向かう。通常なら30分もしないうちにたどり着ける道が倍以上かかったことは間違いない。途中僕を見て明らかに通報しようとしているおばちゃんを見つけては全力でダッシュした。「早くたどり着かなきゃ」そう使命感に駆られた僕はまさしく犯罪者の顔をしていたのではないかと思う。

無事柴田くんの家にたどり着き、祈る気持ちでインターホンを押す。「どうした!?!?!?」インターホンごしに彼の声が聞こえる。
安堵した気持ちと知ってる人の声を聞けた嬉しさで涙が溢れ、顔がぐしゃぐしゃになった顔で「開けてぇーーーーーーー😭」と叫んだ僕に一言
「警察呼んだほうがいい?」

呼ばないで!!!!

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