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【ブランド戦略論】どうやってブランドを構築するのか

あなたが企業のマーケティング責任者で、何かをブランド化し、もっと認知拡大や売上を上げたいと思ったとき、どんな戦略を取りますか?

・SNS運用をして認知拡大する?
・とにかく営業して、足で稼ぐ?

企業のブランド戦略を考えるには、

[1] 現在その企業がどのようなフェーズにあり
[2] 今後どのようなマーケティング戦略をとっていくか

を把握し的確なタイミングで的確なマーケティング戦略を取る必要があるでしょう。

今回は、ブランド化によるマーケティング戦略「時間軸でみた企業フェーズ」「具体的な2つの企業例」を含めてご紹介します。

(※)本記事の内容は、日本マーケティング本 大賞にて大賞(1番)を受賞している、ビジネスパーソンやマーケターのバイブルとなる一冊と言っても表現が足りない名著「ブランド戦略論 (著)田中 洋」の一部内容を元に、筆者が要点をまとめて執筆します。
(※)少々値段は張りますが、1次情報を得る意味でも、この値段でも安すぎるほど、非常に情報密度と情報深度が高い書籍です。ぜひお手に取ってみてください。

マーケティング戦略と『戦略マトリクス』

まず企業がブランド戦略を採用するとき、その企業がどのようなステージにいるのかを確認する必要があります。

このステージを把握するために有効なのが(図1)戦略マトリクス』です。

内的志向 (1)

このマトリクスの各ポジションは、それぞれの企業がどのような志向を持って企業の特質・得意分野を方向づけ、競合優位性を気づいてきたかを示すもので、同時に、その企業がどのような恩恵を顧客に与えてきたかを示しています。

※4つの象限への分類について、後添の【補足説明】に議論の前提を記載しています。ここでは読まなくても理解できますが、より深い理解・疑問点の解消のため、時間があれば読んでみてください。

『コスト・マーケター』とは、生産プロセスの効率化や仕入れ原価を下げることによって、他社より安いコストで競合優位性を築く企業です。
『テクノ・マーケター』とは、製品そのもの、あるいは、生産過程での洗練された独自のテクノロジーを用いた優位性で、差別化を行う企業です。
『チャネル・マーケター』とは、流通の確保力、自前の流通チャネルの構築力・営業力などによって自社の商品を消費者に提供する多くのチャネル・接点を持つ企業です。「プッシュ」の力で競合優位性を作ります。
『ブランド・マーケター』とは、消費者・顧客の頭の”アタマの中に”築いたブランド・フランチャイズを活かして、プレミアム価格で製品を売り、高い収益力を可能にした企業のことを指します。

『コスト・マーケター』『テクノ・マーケター』<量的志向>の企業であり、より多くの売上・シェア拡大をすることで規模の経済を目指します。また、生産性の向上やコスト削減など、より企業内部に向けた働きかけを行う<内的志向>も特徴です。

一方、『チャネル・マーケター』『ブランド・マーケター』<収益志向>の企業であり、売上やシェアよりも価格プレミアムを実現することで、より高い利潤を得ようとします。また、取引先や顧客との関係構築に多大な投資を行い、社外との関係を充実させる<外的志向>を持ち合わせています。

このマトリクスのおもしろい部分は、「企業は最初からブランド・マーケターにはなれない」といところです。

スターバックスと地元のカフェを比べても、確実にブランド力が違うはずです。スタバでは1杯700円ほどする飲み物もありますが、地元のカフェで700円の飲み物を購入するでしょうか?

『ブランド・マーケター』になるまで、企業は必ずその他の3つのフェーズのどれかを経由します。

ここから「ナイキ社(NIKE)」と「良品計画(無印良品)」の事例を元に、戦略マトリクスの読み方と自社の判断基準をご紹介します。

ナイキ社(NIKE)の事例

ナイキ社は1960年代に創業されたときから、創業者フィル・ナイト氏によって構想された事業ブランドを持っていました。それは日本において、より安価なコストで良質な靴を生産するという考え方です。

この段階において、ナイキ社は、いわば、『コスト・マーケター』を施行していたということができます。事実、ナイト氏が来日して、当時のオニツカタイガーに委託して運動靴を生産していました。

その後、ナイキは単に安価な靴だけではなく、ワッフル型の靴底など、アスリートの高度な要求にあった、より高テクノロジーの靴を生産するようになりました。この段階でナイキは『テクノ・マーケター』の志向を強めています。

トップアスリートの要求に答えられる高品質のシューズメーカーへと、自信を変えていきました。

さらに、ナイキは単なる量産運動靴メーカーにとどまらず、トップアスリートをエンドーサーとして用いるブランド戦略を強化(※これはアディダスの模倣と言われている)、この段階に至って、ナイキは『ブランド・マーケター』の地位に移行しました。(図2)

内的志向 (3)

良品計画(無印良品)の事例

さらに、良品計画の事例について、このマトリクス図を使って戦略移動の軌跡をみてみます。

株式会社良品計画は、「無印良品」という元来セゾングループのPBとしての位置付けて開発されたブランドを、PBから脱した一大独立ブランド・グループとして成功に導きました。

1980年にスタートした無印良品は、当初55億円だった売上(83年)が、10年後の93年には308億円にまで拡大しています。

この拡大を、マトリクスに当てはめて理解すると、(図3)のようになります。

内的志向 (2)

事業がスタートした1980年代初頭の無印良品のスローガンは「わけあって、安い」でした。単なる梱包の簡素化にとどまらず、機能と価格とのトレードオフを克服するために素材・工程・梱包の3つの視点から低価格化を進めました。この時点では、無印良品は明らかに『コスト・マーケター』です。

販売開始から3年目の1983年に、無印良品は路面店の開店、百貨店のイン・ショップをオープンさせるなど、流通の拡大を図りました。この動きは今も続いていて、当初のセゾングループのPBという位置付けから完全に脱して、自前の流通チャネルを確保するに至っています。

この段階で、無印良品は『チャネル・マーケター』を志向し始めたと言えるでしょう。

余談ですが、少し前までコンビニのファミリーマートで無印良品のコーナーがありました。無印良品のチャネル戦略の一端が見える事例だと思います。

1989年に、無印良品は西友の事業部から独立し、良品計画として再出発しました。途中で何回かのオリジナルコンセプトを確認しながら、現在では食品・家庭用品など生活用品全般をカバーする大ブランド(同時に小売業でもある)に成長しています。

単に安くていい品物というだけにとどまらず、自然・優しさ・環境をテーマとする意味・理念を内包するブランド性を保有し、そのブランド価値によって他のブランドと差別化され、大きな収益を得るに至っています。

この段階で無印良品は『ブランド・マーケター』として成長したと言えるでしょう。

まとめ

ここまでの事例のように、戦略マトリクスを用いることで企業の戦略がどのように移動したかを理解することができます。

また、自社の業界市場による競合他社のポジショニングを確認したり、自社の成長戦略を見据え、中長期の経営戦略を立てる一助となると思います。

この記事、そして、ご紹介した「ブランド戦略論」の本が、何かのきっかけで役に立つと嬉しいです。

それでは次の記事でお会いしましょう。

【補足説明】

ブランド企業は常に「競争的優位性」を得るために活動しています。

このとき、どのような戦略がありうるかについてマイケル・ポーターの競争戦略論では以下の3つが提唱されています。

① コスト・リーダーシップ戦略
②差別化戦略
③集中戦略

『コスト・リーダーシップ戦略』とは、規模の経済性・独自の技術・有利な材料確保などによって低コストの評判を得ることです。簡単にいうと、「安さで勝負する」戦略です。ドンキホーテやダイソー、低価格の美容室など、価格勝負する企業はいくつか思いつくはずです。その企業をイメージいただけるとわかりやすいでしょう。

『差別化戦略』とは、他社にない独自の価値を提供することで、価格にかかわらず商品を売ること。インテルのような「マイクロプロセッサ」を独自の技術で開発し、同じ領域にて他社を追随させない技術力など、常に価格プレミアム(※他社より余分にお金を払っても欲しいと思える状態)が求められます。

『集中戦略』とは、①②どちらかの戦略を取りながら、狭い領域に集中して戦略を最適化する方法です。例えばポルシェのような車は差別化に徹しながら、車という市場の中では「高級スポーツカー」という狭い市場に徹しています。

ポーターの見解によると、企業は普通、これらの複数の戦略を同時に選択できないと唱えています。つまり、低コストを実現すると同時に、価格プレミアムで追求するような戦略は、一部の限られた条件下でしか成り立たないということです。

例えば、①コスト・リーダーシップと③集中戦略を同時に達成するには、

⑴競合相手が窮地に立っている状況
⑵コストが市場の大きな市場シェアによって決まってしまう
⑶大きなイノベーションをいち早く達成した場合

の3つに限られると説明しています。

簡単にいうと、⑴競合が弱い(またはいない)領域で、⑵大量生産でなければ採算が合わず⑶急速に認知拡大するインパクトのある商品・サービスである必要があるということでしょう。

薄利多売ビジネスと置き換えてもいいかもしれません。

戦略マトリクスによる分析は、ポーターの提唱による『企業は普通、これらの複数の戦略を同時に選択できない』という前提のもとに、企業を4つの象限に分けられるものとして機能します。

もちろん実際の企業活動や、事業をミクロな視点で見ると複数のチャネルにまたぐこともあるかもしれませんが、マクロな視点での概念だと理解いただければ幸いです。




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