【論文紹介】ハンドボールにおける球速の決定要因とは!?Vol.2
タイトル
A FORCE-VELOCITY RELATIONSHIP AND COORDINATION PATTERNS IN OVERARM THROWING
著者:Roland van den Tillaar and Gertjan Ettema
ジャーナル:Journal of Sports Science and Medicine (2004) 3, 211-219
方法
被験者:7名
対象者:ノルウェー2部リーグの男子選手
詳細:平均年齢:25±2.5歳,体重:84.4±9.9kg,身⻑1.84±0.08m
測定方法
・4m離れたターゲットに向かってステップスロー(前足は固定:7mスロー)
・7種類の重さのボールをランダムに投げさせた
撮影方法
3Dモーションキャプチャにて測定した.
結果
・ボール質量の増加に伴い,総動作時間が増加して,ボール速度が有意に低下した.
・被験者に関係なく、ボール質量とボールに加えられた力の両方に対するボール速度の相関関係が依然として見出された.
・手首屈曲の最大速度,肘伸展,肩の内旋,ボールリリース時の肘の角度はボール質量の増加の影響を受けた.
・総投球動作時間は,ボール質量に伴って増加した.
・ボール質量に伴って肩の内旋開始,肘伸展の発生についても,ボールリリースまでの時間が⻑く
なった。
・手首の屈曲開始,肘の最大伸展時間,手首の最大屈曲時間は,ボール質量との有意な関係を示さなかった.
・ボール質量を変えても,運動の発生タイミング(ピーク角速度など)はあまり変化がなかった.
・肩の最大内旋角速度はボールリリース時に発生し,肘の最大伸展角速度はボールリリースの平均0.010秒前にしか発生しなかった.
・肩の内旋角速度の平均は42.5rad/s,肘の伸展角速度の平均は22.7rad/sは,手首関節の平均角速度(11.3rad/s)を大きく上回っていた.
・ボール速度に対する貢献度は,肩の内旋と肘の伸展は約67%.
・体幹の回転,体幹の前傾,骨盤の回転はほとんど貢献していなかった(6%).
・肘の伸展の開始は,肩の内旋の開始よりも前に行われていた.
ハンドボールのシュートスピードを構成する動きとは!?
前回の記事にも書きましたが,ハンドボールの投球動作において超重要な動きは『肩の内旋と肘の伸展』です!!.厳密に言うと,『その角速度の大きさと発生タイミング』が重要です.この2つの関節の最大角速度はリリース直前の動きである「手首の最大屈曲角速度」よりもはるかに大きく,そこからもその貢献度の大きさが想像できますね!ただ面白かったのは,スズキの考えと反して『体幹の貢献度』が低かったこと.ですが,やはりこれは考えにくいですね.単純に考えて,肩の内旋するための筋群は小さく,その動きのみでは確実にボール速度は大きくできませんよね.その動きを作り出すのはどこに依存した力なのか求めなければ本質は見えてこないかと.現に,Bayios and Boudolos (2001)の論文では,ハンドボール 選手の肩の内旋運動の等尺性筋力を測定したところ,ボール速度との相関関係はなかったと報告しています.よって,その関節運動そのものではなく,何かしらの運動や外力によって高速の肩の内旋と肘の伸展が引き起こされていると言うことです.これを『運動依存力(motion dependent force)』と言います!
下半身からのエネルギがーが体幹部を通り,上半身にエネルギーを伝えていると仮定すると,7mスローのような意外と体幹を回しにくい動作がこの貢献度の低さをもたらしただけで,やはり『体幹の運動』が最重要であると言えるのではないでしょうか?この論文の筆者も同様のことを述べています!
とどのつまり,「単に肩の内旋と肘の伸展スピードを上げる!」のではなく,『色々の力を効率的に使って,結果的に上述した2つの関節の角速度を上げれれば...ボール速度UP!!!』になると言うことです!
ハンドボールの投球動作では運動連鎖はいらない!?
今や一般的になった運動連鎖という言葉.これは色々な概念で捉えられています.速度的な概念,慣性モーメントや角度速度を織り交ぜた考え,様々な表現の方法がなされていますが,ようは「体に近い部分の動きが体に遠い部分の動きに順にエネルギーをバトンパスさせていく!」見たいのことを示すのが運動連鎖です.一般的な投球動作の論文では,「肩の速度のピークの次には肘の速度のピークがくる」とされてきていましたが,この研究ではそれが覆りました.なんと肘と肩の最大角速度のタイミングはほぼ同じであったからです.実はこの現象はスズキの修士論文でも明らかになりました.さらに言えば,多くのハンドボールの論文で同様のパターンが報告されています.
つまり,野球など,ボールが小さいものを投げる時は肘の伸展角速が遅れて発生しますが,ハンドボールのようなボールがやや大きい種目は早めに肘を伸展させることだもしかしたら重要になるのかも!?しれません.Hong et al, (2001)は,関節トルクの発現は厳密には近位-遠位の連続した順序ではないと述べています.Hong et al, (2001)は,前腕の伸筋と肩の内旋筋がほぼ同時に選択され,リリース直前まで作用し続けることを発見したそうです!おもしろ!
この論文で,なるほど!と思わされたのはやはり,ボール速度とボール加えられた最大の力が負の相関を示したこと.力だけあっても,ボールは速くなりません!そんなようなことをハンドボールのオンラインサロン「kocs」では,ハンドボールの投球動作に関する情報としてZOOMでセミナーしたりしてます!!もし,ご興味があれば,Facebookにてご連絡ください!それでは!
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