[読書]ヒキコモリ漂流記 完全版

『髭男爵』というお笑い芸人をご存知でしょうか。私もあまり知りません。おじさん二人が貴族風の衣装を着て、ワイングラスで乾杯し、意味なく明るくはしゃいでいる印象です。そんな芸人さんが、実はヒキコモリだったという自分の青春を描いた作品です。

中学から成人まで引きこもるという、大変胃の痛い話なのですが。。面白い。あまりに強烈かつオチのあるエピソードの連続に、実はフィクションなのではないかと疑ってしまいます。

もし、ノンフィクションだったとして。

学校制度は難しい、と改めて思います。仕事や趣味のように共通の目的があって集まるのではなく、年齢だけで集団を維持しなくてはならないこと。未成熟な子どもたちだけで、各自が必死にアイデンティティを確立しようとしていること。学年割でところてんのように押し出され、一人一人の発達段階に必ずしもあっていないこと。などなど。
一度立ち止まるとなかなかにきつい環境。

それから。
引きこもっている当人や家族は、毎日どうして良いかわからないお先真っ暗な状況ですが、他人の人生の一場面として捉えると、未成年引きこもりは、リカバリ可能ですね。
災害、戦争や難民のように圧倒的に不条理なわけでもなく、自殺や難病のように死が近すぎるわけでもない。

昔の落語や小説では、高等遊民とか、長屋でごろごろしているおじさんとか、非生産的な人が見つかります。全ての人間に生産性を求める近代の価値観が、私達を慌てさせるのでしょうか。
そういう目で見ると、引きこもりをなんだかんだいう「普通の」社会が病んでるようにも思えてきます。「普通の」人が我慢して学校や会社に行っているのだから、皆我慢しましょうという。。

中学に6年かかる子もいてもいいし、飛び級する子がいても良い。ネットを活用することで、片道何時間もかけて重たい荷物持って通学しなくてもいい。勉強したい人が自分のペースで育っていく。。次はそういう時代になるといいなあ。

そうは言っても、娘たちの親としては、自分が元気なうちに、早くどんどん外へ飛び出して、たくさん楽しいことも嫌なことも経験して欲しいと思ってしまいます。

最終章の娘さんとのエピソードが素敵です。
何もかも浄化されます。

☆☆☆

著者 山田ルイ53世
刊行 角川書店
刊行年 2018年文庫版
https://www.kadokawa.co.jp/product/321707000553/

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