[絵本]ふたりはいっしょ

がまくんとかえるくん、2匹の蛙の静かな日常がユーモラスに綴られているシリーズですが、何故か切なくて心がきゅっと締め付けられる作品です。

なぜでしょう?
お話ごとにあらすじを並べてみます。

『予定表』がまくんが予定表に縛られてしまうお話。かえるくんは何も意見せずただ寄り添います。
『はやくめをだせ』かえるくんの素敵なお庭を見て、がまくんが自分の庭を早く発芽させるために孤軍奮闘するお話。もちろん最後には無事芽吹きますが、がまくんの一生懸命さはまるで母親のそれです。
『クッキー』がまくんが実に美味しいクッキーを焼きます。“いしりょく”でも食べるのを止められなくなったふたり。かえるくんは、思い切って鳥たちにクッキーを上げてしまいます。が、がまくんは“いしりょく”をかえるくんに任せ、クッキーを焼きに帰ります。
『こわくないやい』ふたりは勇気を試そうと小さな冒険に出ます。ところが、外は天敵ばかり。声を揃えて“こわくなんかないやい”と唱えて急いで家に帰り、お互いの勇敢さを称え合うのでした。
『がまくんのゆめ』がまくんが悪夢を見ます。がまくんの何かを自慢すればするほど、かえるくんが小さくなっていってしまうのです!かえるくんがまくんを起こしてくれて、ふたりはまた素敵な1日を過ごします。

理想の親友と過ごす、普通の毎日。セピアの写真を思わせるような、緑と茶の抑えた色調で蛙たちが描かれているのも、またしみじみとさせられる一因です。

ずっと相思相愛の友達関係も、何でもないことに贅沢に時間をつかうことも、なかなか手に入らないこと。もし、手に入れたとしても、指の間から砂がこぼれ落ちるようにあっという間に失われてしまうもの。その儚さが、私たちを切なくさせるのかと思います。

小さい頃は自分の“かえるくん”や“がまくん”を恋い焦がれ、大人になったらたっぷりと時間が流れていた幼い頃を想い出す。きゅんとさせられながらも、いつでも近くにある幸せを運んでくれる作品です。

そしてもう一つ忘れてはいけないこと。
悪夢から覚めたがまくんは、“ぼく きみが きてくれて うれしいよ”、とかえるくんに伝えます。がまくんは、やんちゃですが、こわがらずに素直に好意を他人に伝える姿勢は最強です。

☆☆☆
ふたりはいっしょ
アーノルド・ローベル 作絵
三木卓 訳
発行年 1987年 初版1972年
文化出版局
http://books.bunka.ac.jp/np/isbn/9784579402489/

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