[映画]墓泥棒と失われた女神

東の辺境に住む日本人にとって欧米って一括りに捉えてしまいがちなのですが、もちろんその中には色々なお国柄があって。文化が国境で区切られているわけでもないことはうっすらわかるものの、そこまで詳しくないのでとりあえずイタリア。この映画はイタリアっぽいぞと思って鑑賞しました。

登場人物が賑やかでがちゃがちゃしていて、現実と幻想が交差して、社会の実情にシビアでいながら、暗く残酷にはならず明るく刹那的に楽しむ、そして意味がわからない。私にとって映画鑑賞は非日常を味わうことも楽しみの一つなので満足です。フェリーニなんて久しく忘れていましたが確かにあの美しさと雑然としたエピソード、そして観終った後のなんだったんだろ?感、に溢れています。

好きだったポイント。
イタリア映画なのに主人公が英国出身のイケメン。関西のおばちゃんみたいに喋り倒す他登場人物に比べて圧倒的に無口。犯罪者だし恋人と遺跡への執着はおかしいし清潔感のない役柄なのに、その端正な佇まいで嫌悪感がわかないどころか同情してしまい、さらには何を考えているのか覗き込むように観てしまいました。
それから、主人公の恋人の母。欧州映画のセレブが演じて桁外れの存在感を示しているのですが、年老いてもなお孤高を貫いているのに、娘たちにやんや言われているのがイタリア家族愛の象徴。そして、唯一主人公と同じ幻想(娘がどこかに生存している)がみえている「現実的な」救いを感じる存在です。
全体通して、圧倒的に素晴らしかったのは映像。仄暗い車内も、崖の上の掘立小屋も、雑然とした街中や祭のシーンも、何故か美しい。生命の象徴のようなヒロインが導く廃駅の場面は、緯度の低い地中海沿岸特有の光のまばゆさで、ちょっと忘れがたい多幸感を運んでくれます。

☆☆☆★★

監督 アリーチェ・ロルヴァケル
出演 ジョシュ・オコナー、イザベラ・ロッセリーニなど
2023年イタリア、スイス、フランス

https://www.bitters.co.jp/hakadorobou/



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