[絵本]にぐるまひいて

読み聞かせながら人生をふと考えてしまう1冊です。百年と少し前のアメリカの開拓時代が舞台で一家の生活が淡々と描かれます。

父さんが荷車に一家で1年に生産したものを乗せ、何日もかけて市場に行きます。荷車やそれをひく牛まできれいに売り、歩いて帰ります。そしてまた、野菜や果物を育て、牛や羊やガチョウを飼い、屋根板を切り出し、楓砂糖を煮詰める毎日が続きます。

木版で描いたという絵が素晴らしく、心を落ち着かせます。もっとも癒される場面は静かな家族団欒のページ。

むすめははりをもらうとししゅうにとりかかり
むすこはバーロウナイフをうけとるときをけずりはじめ
あたらしいなべでゆうはんをつくり
おしまいにみんなでうすみどりいろの
はっかキャンディをひとつずつなめた

江國香織さんの著書「絵本を抱えて部屋のすみへ」に導かれてたくさんの素敵な作品に出会ったのですが、これもその1冊。

特に次女のゴマは大変お気に入り。そして私にとってもこの本は彼女を理解する手がかりのひとつでした。ゴマは声の大きな長女に主役を持っていかれることが多く、少し気の毒なのですが、それでもどっしり構えています。未知の豊かな世界を内に持っているのだと、いつも思わされました。

勉強ができるとか、スポーツができるとか、わかりやすい美点ではないけれど、この本のような確たる世界を内に持つのも得難い才能と、親馬鹿の私は思います。

実際は、荷車ひく父さんは怪我するかもしれないし、勤勉な息子は上手く屋根板を切り出せるようにならないかもしれない。
それでも明日が来ることを信じられる、力強い絵本です。

☆☆☆
にぐるまひいて
ドナルド・ホール 文
バーバラ・クーニー 絵
もきかずこ 訳
ほるぷ出版
出版年月 1980年10月

http://www.holp-pub.co.jp/books/50139/

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