[絵本]スイミー

子供の頃、この本は苦手でした。次女が持ってきたので再会し、印象が変わりました。

小さな赤い魚たちが群れで暮らしています。その中で1匹だけ真っ黒なのがスイミー。ある日、群れごとマグロに呑み込まれ、逃げ切ったスイミーは、ひとり海をさまよいます。さびしくかなしく泳ぐうち、見たこともない海の生物に出会い、段々元気が出てきます。くらげ、いせえび、海藻の森、うなぎにイソギンチャク。。

やがてスイミーは仲間とそっくりの小さな赤い魚の群れに出会います。大きな魚に食べられることを恐れて、外の世界に出ない小魚たち。スイミーは群れで大きな魚のように見せかけることを提案。練習を重ねた後、小さな魚たちは大きな魚を追い出し、かがやく海を楽しむのでした。

子供の頃の苦手意識は、おそらく学校で、“皆で協力することで、一人ではできないことも達成できる”というような解釈を聞いたのだと思います。その印象が強すぎて、大きな魚の形で隊列を組んで泳ぐ場面以外はあまり覚えていませんでした。

再読して印象に残ったのは、独りぼっちになったスイミーが出会う海の生物たち。見開き丸々使って生物が描かれて、見応えがあります。ユーモラスな伊勢海老や鰻にもわくわくさせられますが、私は海藻の森が好きです。うっそうと茂った海藻の間、人間なら絡まってしまいますが、小魚なら訳なく楽しめるでしょう。この一連のくだりだけでも、元気が出てきます。

きっとこの本は、私が子供の頃感じてしまった集団行動礼讚ではないでしょう。大人になって欧米とのコミュニケーションを経験すると、“個”が日本比かなり強く確立されているように感じます。しっかり自分の意思を持った上、必要性があれば集団で動くのが当たり前。そんな文化で生まれた本ですから、群れで隊列を保って泳ぐ場面は、集団への埋没ではなく、赤い魚各々がスイミーの提案と個性を受け入れた調和の時と考えられます。

スイミーが1匹だけ真っ黒であることや、仲間を失って外の世界を知ること、知恵を絞って大きな魚に対抗すること、含蓄に富むエピソードが複数あり、色々な解釈の余地があります。

美しい絵はもちろん、その折々、読み手が自分に似合うメッセージを受けとれる素敵な作品だと思います。

☆☆☆

スイミー
レオ・レオニ 作・絵
好学社
刊行年 原作1963年 翻訳1969年
http://www.kogakusha.com/book/187/

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