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僕の輪郭

 生きる、を無意識にしている人、死ぬ、を常に意識している人。生きる、を意識して過ごす人、死ぬ、を無意識に迎える人。
混ざり合ったりすれ違ったりする。喧騒という名のBGMの内側で、誰かの気持ちは揺れて、誰かの気持ちはより強固なものになる。

どこへ向かおうと道は入り組み、僕らの邪魔をする。入り組んだ道で出会う人が手を引いて、僕らの邪魔をする。
偶然も必然も僕らが巻き起こすものだ。

好きな人と出会える世界も偶然、必然。
その人とひとつの傘におさまり、歩く雨の日も偶然、必然。
その人と手を繋いで、暑苦しい太陽の下で光る海を眺めるのも偶然、必然。

偶然、必然の混じる曖昧な世界で流れた景色の輪郭を何度もなぞる。真っ白なスケッチブックに何度も描き写す。誰かに伝わると信じて、あの一瞬、この永遠を描き残す。

これが最後なら色をつけて華やかな最期にする。苦しいなら嫌いな色で、嬉しいなら好きな色で。
「僕が消えても、」ひとり呟く。空気の悪い部屋に充満している、黒い光を纏った靄。
死ぬ、その意識の裏に微かに匂う、無意識の生きる、ということへの欲望。

描き終わった僕は、水を飲み、吐きだした。
もう、いい。部屋を出た。
ペットボトルに残った水を頭にかけ、走った。
思いきり助走をつけて、思いきり飛んだ。
通りがかった誰かに届くように。
残るように。響くように。

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