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飛行機が怖いを克服するひとり旅

私は飛行機が怖い。

特に離陸の準備ができたときに発するエンジンの爆音。             爆音とともに一気に加速し離陸直後から始まる浮遊感。

もう青ざめて脂汗、これで死ぬんじゃないかという気分になる。         空港についた時点で死が目の前にある感覚。

初めての海外旅行は19歳の時の社員旅行、香港。                   この時に初めて飛行機に乗って浮遊感にワクワクしていたのに。

30半ば、神戸で学会があり羽田から飛行機で行くことになった。       10年ぶりかの飛行機。その時に初めて爆音と加速と離陸の恐怖感に襲われた。    なぜ?

飛行機で怖い思いをしたことはないのに。あまりの恐怖に気分が悪くなり高度が上がりきり飛行が安定するまで生きた心地がしなかった。

どうしてこんなに怖いのか過去の記憶を辿って行くと、一つだけ思い当たるものがあった。

アメリカ同時多発テロ、9・11事件だ。                         これしか思いつかない。                              当時、一人暮らしの部屋でいつものように筑紫哲也のニュース23をつけていたら急にざわつき始め、リアルタイムで映像が流されたのを唖然としながら見入っていた。ビルの中にいる人たち、飛行機の中にいる人たち、ビルが雪崩のように崩れる映像、私の想像力がフル回転していた。恐怖しかない。

飛行機に久しぶりに乗り、突然恐怖感に襲われたのもこの事件の記憶が自分の意識とは関係なく心に残っていて、飛行機に乗ったことで蓋が開いたんだと思った。恐怖が刷り込まれていることに驚いた。

それから度々飛行機に乗る機会は多くなり、いつも隣にいる家族にしがみつくか、耳を塞いで小さく屈み込むことでなんとか乗れていた。2009年社員旅行でニュージーランドへ行き、ニュージランド内を移動するのも飛行機ということもあり、その旅行で計6回乗ったが全く克服できなかった。

2017年、同僚と台湾の話で盛り上がり二人で行くことになった。        それほど仲が良いというわけではない同僚だったが信じられないくらいに意気投合し、信じられないくらい楽しい旅行だった。彼女はアメリカに滞在したこともあり、旅慣れしていて色んな国を旅していたので私のこの恐怖感を話すと信じられないという反応だった。

初めて台湾に旅行した時は2015年、友だちと二人。             この時は転職したばかりで新しい病院での人間関係の悪さに心が苛まれ、せっかく3泊4日もあったのに私はこの旅行、半分も楽しめなかった。        旅行中は過去や未来への不安に苛まれていて気が気じゃなかった。

2017年の台湾旅行は一緒に行った同僚の旅慣れしている姿に刺激を受けたのと、台北は松山空港からすぐの位置、漢字だから読める、お店に入るとたまに日本語を話してくれる台湾人の方がいた。                    何よりも台北の活気、屋台のご飯の美味しさ。               街や人々がエキゾチックで魅力的だった。

だから、台湾なら一人で行けるかもしれない、と思った。

かなり前置きが長くなったが、これが私の海外ひとり旅、飛行機克服への第一歩となった。

2018年2月、初の海外一人旅を敢行した。48歳。

覚悟を決めて行ったせいか、飛行機往復は難なく克服できたという結果となった。

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それよりも大きな収穫があった。                   2泊3日の初めての海外一人旅、危機管理や時間配分など、たくさん歩いたからここで休まないと夜まで体力が持たないとか、明日はあのお店に8時に行きたいから6時半には起きないといけないとか、行くためにはどの駅からどう乗り換えるかとか、大好きなピーナツ汁粉を夕食後に美味しく食べるための行動を考えたりとか。                       

2泊3日でどれだけ安全にエンジョイできるか、               自分の体調管理と危機管理、時間配分を整えることで頭をフル回転させていた。

この時だってストレスは抱えていたけど、日々の嫌なことを旅に持って行く余裕はなく、一人だから安全に楽しく過ごせるよう瞬間に全集中させていた。

言葉が通じない土地でどうやって過ごすかに夢中で余計なことを思い出したり考えたりする暇などなかった。それがとても充実した良き旅となった。

実は飛行機克服よりも、「今」に集中して過ごす、生きる、といことの意味に気づくきっかけとなった。

旅から帰り、心療内科の定期受診日に主治医に先ほど書いた旅の感想を伝えると主治医が手を叩いて喜んでいた。思いも寄らない先生の反応に私はびっくりした。

なぜかというと、精神科領域では過去や未来に囚われず「今」に集中できるよう患者を導くことが主流であり、それが可能になれば治療は成功だと言い切れるほどのことだという。だから喜んでくれていた。

結果、私はそれを地でおこなっていたということになる。          とはいえ人生は死ぬまで続くのだからこれから良いことも悪いこともたくさんあるだろう。

私は海外ひとり旅を敢行したことによって「今」に全集中することを体験し、その意味を先生から聞かされることで「今」の大切さに気づくことができた。

現在、私は退職したばかりで毎日が休み。                 もしコロナ渦でなければ海外に行けるのになぁとちょっと悔しい。

生きることは過去や未来を憂うのではなく「今」を生きることだ、とカッコつけていても日々ダラダラと惰眠を貪った生活をしている。がしかし、惰眠を貪るのもある意味極楽であるが反省はしている。

再就職はまだ先になりそうなので、コロナの状況を鑑みながら国内の旅を計画して行きたい。        

海外ほどの緊張感はないのは物足りないけれど。コロナにかからないように行動する緊張感はある、皮肉なものだ。

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