0001変化の始点
起稿20240306
改稿20240512
・0001 変化の始点
2月2日金曜日 帰宅後
いつものように会社から帰宅。
まずはパソコンを起動させてから、冷蔵庫をチェック。
野菜だの肉だのを取り出して、チャチャッといつもの炒め物を作り、玉子スープの素をお椀に入れてお湯を注ぎ、ご飯を茶碗によそって食卓。いつものネット番組を観ながらの夕食。
いつも通りの帰宅後の流れ。
いつもと違うのは、会社で社長からのメールが昼間に来たことだろうか。
メールの内容はシンプルで、新規プロジェクトを立ち上げることとなったということで、その立ち上げメンバーとして、直接のご指名での参加要請だった。ただ、どんなプロジェクトなのかという情報は何も無いのが不安なんだけど…。
詳細については、来週月曜日2月5日の午後14時から、場所は会社の301会議室で、新規プロジェクトに関する打ち合わせを行うということで、そこで内容を明らかにするそうだ。
ヒアタリ課長には、先行して調整を依頼していたみたいで、このことを確認すると、新プロジェクト以上の内容は判らないものの、すでに連絡が通っていて、月曜日の午後からは、半日ガッツリと空いているらしい。「いつ帰ってきても仕事はあるから安心してくれ」と、安心できないお言葉を頂戴している。
営業部長のグウゼン部長からもメールが来て、”社長から連絡があったと思うけども”という言葉の下で、新プロジェクトに関するインビテーション(会議の参加要請)が送られてきたので、参加で返信し、社長へも参加する旨のメールを返信するという普段と違う、ちょっと丁寧な言葉を使うメールを書くという出来事があり、慣れないことをしたからか、久々に妙な疲れを感じながらの帰宅になった。
夕食を食べ終え、ネット番組も見終え、「さて」と夕食を片付けると、気分転換にゲームでもしようかと自室の椅子に腰掛け、グローブ式コントローラーを片手にヘッドセットをかぶる。
「アクセスログイン。」
「音声確認、認証クリア、網膜確認、認証クリア、コントローラー接続確認、クリア。お帰りなさい。リカイ。」
VRセットの女性音声が流れる。
「サバイバルネット、オープン。ログイン。」
「サバイバルネット、オープン。ログイン…。クリア」
俺が呟くと、VRセットの女性の音声が復唱し、目の前にゲームの世界が現れる。
「ようこそ、お帰りなさいませバウト様。」
今度はゲームの女性音声が入り、大勢の人が行き交う街中に視界が変わると、ゲームの世界に入ったことを実感する。
VRゲーム サバイバルネット
多人数同時接続を可能としたVR-MMO-RPG。
サバイバルネットは、戦場の銃撃戦をメインとしたゲームで、制限時間で生き残りをかけて戦うというゲームスタイル。
廃屋の地下や倉庫などにある武器を調達したり、中に残っているガソリン次第だが、乗り捨てられたバイクや車に乗って逃走を計ったりとあるが、拾い歩くのがメインのゲームではない。
所属の仮想国を勝利に導くためにミッションをこなしたり、敵のミッションを妨害したりして、所属仮想国を勝利に近づけさせるというのがメインのゲーム。
ミッションは色々とあり、数多く存在する拠点と呼ばれる場所を守ったり、攻めたりするのが人気も高く多いのだが、特別ミッションと題された、チームとか、グループで行う団体ミッション。これは護衛やアイテムを奪取するとかそういうソロ(一人)では少し難しいミッションがあったりもする。
ミッションをこなすことにより支給される金額などの報酬があり、貯めた金額で新たな装備を仕入れたりする。
シングルプレイで物語りに沿ったシナリオステージを愉しんだり、複数人でチームを組まないと知ることが出来ない、チーム用のシナリオに挑戦するというものもある。
人気のミッションの中には、総力戦という陣取りゲームで、要衝地域を2つの陣営(国)で取り合うというもの。
ただ攻めれば良いという訳ではなく、砦の中に入って部屋の奪取率によって、砦を奪ったり奪われたりする。
攻勢になるか、守勢になるかは、頻度の公平性を保つためにパターン化されているが、どちらも今後の所属仮想国の存亡に関わる。
所属仮想国が滅亡すると首脳陣が守勢地域を持たない勢力としてレジスタンス(反体制勢力)化し、所属プレイヤーもレジスタンス化する。
装備などの費用が所属仮想国がある時に比べ割高になるので、プレイヤーも防衛にちゃんと勤めてくれるという仕組みだ。
ちなみに世界規模のゲームで、プレイヤーが多く存在していて、翻訳機能も充実している。
ゲームの対象年齢は18歳以上になっているが、無免許運転の防止とか、過激表現だとか色々うるさいらしい。
まぁ、それはともかくとして、とりあえずギルドに行くとしよう。
ギルドホールは大きな建物で、この街で二番目に大きな建物になる。
まるでホテルのような雰囲気の豪華なギルドホールに入ると、同じくホテルの受付のようなカウンターがある。
「ようこそギルドホールへ」
「ギルドルーム、あしあと」
「かしこまりました。」
声をかけてくれた受付の男性に、俺が返答として行き先を言うと、丁寧にお辞儀をして、いつものように何かを押す仕草をする受付男性。
その途端、目の前の景色はギルドルームのドアの前になる。このドアの先は俺達のギルドルームになる。ということでドアを開けて中に入る。
ちなみにいつもは、ギルドに加入すると手に入るアイテムを使って、部屋の中にワープ(瞬間移動)している。
「おつかれ、リカイ」
「シコウおつかれ、こっちに来てたんだ。」
「あぁ。ちょっとね。」
部屋の中央の大きめのテーブルには、戦闘服姿の男性。シコウがゆったりと椅子に腰掛けている。
シコウは、部署は違うけれど、俺と同じ会社の仲間で、アカウント名がカウント。名前はコウゾウ シコウ。
分析とかを好んでやってくれるんだが、ガチガチに組みすぎる傾向がある。
ギルドのルールとして、ここでは名前で呼ぶルールにしているからシコウと呼んでいる。
ただ、他のメンバーもそうだけど、ここで馴れたからか、畏まった場所以外で、メンバーから名字で呼ばれることはない。
俺もここでは名字のユキサキではなく、リカイと呼ばれている。
ちなみにギルドメンバーは5人で、部署は違うものの同じ会社の仲間で構成されている。
「珍しいね。受付からのご帰還なんて」
「なんとなくね。少し頭を整理したかったのもあるけど」
「なんかあった?」
「社長の呼び出し。来週の月曜日に打ち合わせに参加するようにってさ」
「リカイもなんだ」
「シコウも?」
「うん、協力して欲しいみたいなことがメールに書いてあった。」
「何があったんだか」
「新規プロジェクトとしか書いてなかったからなぁ」
「おつかれ」
シコウが言葉を言い切るかどうかというタイミングで、突然大柄の男性が現れる。ちなみにさっき話したギルドアイテムでワープすると、こんな感じでギルドルームに入れる。彼はアカウント名がマックスで、本名がナンロ トウハ。
体を鍛えるのが好きで、ジムに行ってからログインすることが多い。
「早かったなトウハ。」
「みんなに相談したいことがあってな」
「社長絡みか?」
「お?おぉ」
「こりゃウチのメンバー全員かもな」
「リカイ達もか?」
「今シコウとその話をしてたんだ」
「女性陣も呼ばれているのかな」
「さて、どうかな」
三人で会話をしているとドアから二人の美少女が入ってきた。
ウチの女性メンバーで、長身の美少女がアカウント名マゼンダ。本名がイクン スンカ。
ギルドのムードメーカーで、会社でも顔が広いと思う。このギルドの発起人なんだけど、管理はこっちに任せきりになってる。
で、もう一人。少し背の低い方の美少女が、アカウント名ストーン。本名がショサ シクミ。
気配りの出来る普段は無口な女性。スンカが普段から気にかけてて、ゲームを一緒にやるようになってからは、なんとなくだけど明るくなった気がする。
「どうしたのお揃いで」
「社長からのメールが来たって話をしてたんだ」
スンカが声をかけてくるのをトウハが答える。
「ギルメン全員に送ったってこと?」
「スンカも、シクミもか」
「そうなの。シクミちゃんが気にしてたからさぁ、みんなに聞いてみよってね。フィールドを後回しにしたの」
スンカの話にコクコクと頷くエモーションをするシクミ。
「会社の同好会申請が通ったのならいいけどなぁ~」
「おぉ!大会参加費が浮くな」
「地味に参加費が高いんだよね~」
スンカの笑顔のこもった声にトウハも浮いた声になる。
「多分違うと思いますよ。同好会申請が通っただけなら、書類だけの連絡になるんじゃないですか?新規プロジェクトとか書いてありましたし」
「でもこのメンバー全員でしょ?」
「どうした?」
シコウが可能性を否定すると、スンカが疑問の声を挙げるので、気になって俺が聞き返す。
「部署がバラバラなのはまぁ、ある意味可能性があるといえばあるし、ここのお陰で仲も悪くないから理解は出来るけど、何が出来るのかってなると微妙じゃない?」
「あぁ~。全く読めないな。」
俺も何が出来るかと問われると全く読めなかったので、あっさり想像出来ないことを言うと、ちょっとした会話の空白が出来る。
「開発とかテスト関係とかならなんとか。僕も参加することがあるし」
「まぁ多少現実味があるな」
「まぁとにかく、呼ばれたのがこのメンツなら気が楽だな」
コクコクコクコク…。
シクミが俺達の会話を聞いてからへッドバンギングのエモーションで激しく同意してくれると、みんなで笑い事を上げ、和やかな空気になる。
「他の参加者は判らないが、少なくとも俺は参加するつもりだけど。みんなは?」
「参加で返信したよ。断る理由があるわけでもない」
トウハが返事をすると、ギルドメンバー全員が参加で応じたそうだ。確かに俺も断ろうとごねる理由が思いつかない。
「みんなが参加してくれるのは正直心強いな。ゲームの外だけどヨロシク」
「良いね良いね。リーダーっぽくて良いねぇ」
「リーダーじゃないから」
「またぁ。(仮)を取りなさい」
「嫌だね」
「なんとなくまとまったし、ミッション受けとくか?」
俺がせっかく話を締めたというのに、スンカがかまってくるのでいなしていると、トウハから本日のミッションの提案。
みんな快諾で、憂さ晴らしも兼ねて1つのミッションをこなしてから今日は解散することになった。
「で、どのミッションやるの?」
ちょっとテンションの上がったスンカが聞いてくる。
「みんなの希望は?」
「思いっきり撃てるやつ」
「それな。気分転換にはいいよな」
「稼げると嬉しいかな」
「シクミは?」
「ん~。防衛戦」
「思いっきり撃てて、稼げて、防衛戦かぁ」
トウハとスンカはガンガン攻めたいらしいが、それだとシコウの求める稼ぐのは難しい。比較的金欠になりやすいこのゲームでは金欠は死活問題なのだが、理由としては、それなりの被害が出やすいから。
サバイバルネットというゲームは、そこら辺のバランスがなかなか上手く出来ていて、ガンガン攻めて無傷みたいな。相手が弱すぎるミッションだと報酬額が比較的が少なくなる。高難度のミッションになればなるほど報酬額は上がるんだけれども、相手がNPC(ノンプレイヤーキャラクター)でも強くなり、修繕費が嵩む確率が上がり、報酬額よりもマイナスになるケースが多々ある。また、プレイヤー同士のミッションだと、双方のプレイヤーの技量の差や装備の充実具合で被害が増減するので、この辺りは運になる。
防衛戦は二つ三つほど種類があるが、そのプレイヤー同士のミッションで、それなりの高報酬で、1日に数回に行われるミッション、常時開催しているわけじゃない。また不用意にガンガン攻めるとプレイヤー同士なので、集中砲火を受けることも有り、修繕費が嵩むケースもある。まぁ戦い方次第では一番稼げるのも防衛戦なのだが……。
俺はミッション画面をグローブコントローラーでスクロールしていると、そろそろ砦の防衛戦の時間になることがわかった。シクミはこれを見ていたのかもしれない。
砦の防衛戦というのは、所属しているゲーム上の仮想国の防衛拠点を守る。もしくは攻めるミッションだ。
この砦がどちらの所属になるかで領土が伸縮する。所属国の拡大縮小はこの砦の防衛戦で決まる。
守るか攻めるかはゲーム上ランダムなので敵方の砦が戦場になることもあるわけだが、その時にその砦に行かなければ参加は出来ない。そんな制限があるので、1時間前から情報が出るのだが、今回は攻める方らしいので、所属国の領土から出て、敵方の砦に行く必要がある。
今回の防衛戦は中継地点から比較的近いから開始までに間に合うだろう。
「久々に砦の防衛戦に行くか」
「そうね、いいんじゃない」
「んじゃ行くか」
そんな軽いノリで、出掛けることになった。
防衛拠点となる砦は基本として国境付近にある。
国境を維持するための施設なのだから当然なのだが、首都をギルドの拠点としているウチのギルドのような面々には、防衛拠点までの距離を徒歩で移動するなんて、移動するだけでも億劫になる。
そんなことを考慮してか、街のヘリポートまで行けば、ヘリコプターによる輸送、移送を行ってくれる。残念ながら防衛拠点まで運んではくれないが、防衛拠点の付近の町まで送ってくれる。
今回は敵方の防衛拠点に向かうので、ミッション用の行き先は、所属国の領土の中で一番近い街に移送される。
移動の時間はゲームの仕様上、読み込み時間で防衛拠点付近の町まで着く感じだ。
なかなか便利なのだが、ここから敵方の砦までは歩きか、乗り捨てられた車やバイクを使うという感じ、ただ参加人数が多くなる砦の防衛戦は、ほぼ歩きで進む。時間はだいたい数分程度で着く距離。
この間に戦闘になることはない。非戦闘地域に指定されていて、好んで攻撃を仕掛けない限り戦闘は起こらない。
ゲームだからか入出国の管理もない。
あと数分で開始というところで俺達は敵方の砦付近に到着できた。
砦の防衛戦の勝敗は、砦にある部屋の占拠割合で決まる。
部屋はだいたい20ぐらい。砦ごとにレイアウトが変わることも無いので、マップは覚えやすい、引き分けは守勢側の勝利になる。当然ながら勝った方が報酬額も高くなる。
基本的な流れとしては、守勢側の視点だと、砦の周囲を囲まれた状態からスタートして、まずは砦の中に入らせないことを念頭に戦う。
攻勢側からすると、ルートとしては、砦の外壁の扉に耐久力ゲージがあり、銃などで攻撃して耐久力を削って無くなると扉が破壊され、攻勢側が砦の外壁の中に入れるようになる。
中庭を通り建物の扉の耐久力ゲージを削って破壊すると、漸く砦の中に入れる。あとは接近戦をしつつ、部屋の中を攻勢側だけにすれば、その部屋は攻勢側の占拠となる。
守勢側も中に入られても接近戦を試みたり、占拠されてしまった部屋に乗り込んで占拠し直したり出来る。最終的に制限時間になった時の部屋の占拠割合で勝敗が決まる。こんな感じだ。
さて今回はというと、なんとか開始時間には間に合ったものの、攻勢側だ。被害がそれなりに想定されるので大きく稼げるわけではない。
幸い、参加人数が周りを見ても多いので、数で圧せるかもしれない。
俺は基本的な被害縮小を模索して接近戦を序盤は避けたいと考えている。
人数が少なければ、そうも言っていられないが、多いときは別。前線に立ちたい人達に任せたい。
状況をみながら劣勢にならない限り、少なくとも外壁の扉が破壊されるまでは、壁の上を比較的後方から狙うつもりだ。壁の上には守勢側の人達がこちらを攻撃してくるので、ここの人数を減らさないと、こちらの前線で戦う人達の被害が甚大になる。
手持ちの武器はグレネードランチャー系とスナイパーライフル系。補助系アイテムは、フラッシュグレネードが一つと、グレネード(手榴弾)が一つ。余談だけれども、補助武器が2種類一つずつというのは、いつも思うが少ないと思う。
ちなみにだが、グレネードランチャーは、射出可能な手榴弾を放つ範囲系の武器になる。
あとは準備として、会話は無線仕様に変更しておく、ギルドメンバー共有のものにすれば、メンバー間だけの会話が出来る。
『準備はどうだ?』
『いつもの装備で良かったのよね』
『問題ないだろ』
『リカイは壁の上から攻める?』
『そうしようかな。シコウとシクミと俺は壁の上で撃ち降ろす敵を片っ端から攻める。出来るだけ物影に隠れながらやろう』
『『了解』』
『トウハとスンカは扉を後方から、出来るだけ移動しながら狙ってくれ。武器は任せる』
『『了解』』
『そろそろ始まるかな』
『あと20秒』
『了解。リカバリー(回復薬)は小まめに使ってくれ。ロストするなよ』
『OK~。じゃ。カウントダウン。5、4、3、2、1。Go~!!』
スンカのかけ声を聞き流しながら、俺、シコウ、は所々にある茂みに飛び込み、シクミは岩陰に隠れた。ゲーム性を上げるためなのかよく判らないが、ミッションがスタートしないとこういう隠れる場所が現れない仕様になっているので、イソイソと隠れないと恰好の的になる。
トウハとスンカは扉に群がる味方の少し後ろ側からトウハもスンカもマシンガンをぶっ放す。
さて、俺もキル数を稼がねば。
壁の上の敵は見えにくい。だいたい胸の辺りから
上しか見えない。身長設定が低いと頭しか見えないこともある。今回も壁の上の人数は比較的にいるから順次狙っていく。
『そっちどうだ?』
『結構壁の上にいるけど、そこまで多くは無い。そっちは?』
『いつもより硬いかもしれん。敵さんは補修ミッションをちゃんとやってるのかもしれんな』
『上からのグレネード嫌い』
『ちゃんとリカバリー(回復薬)しろよ』
『大丈夫。まだたっぷりあるから半分までガマン。最近手持ちが少ないんだから』
『スンカ。手持ちが少ないなら部屋取り無しな』
『大丈夫。たっぷりあるから』
『外壁の扉を破る前に補充してください。僕は少しなら渡せます』
『私もあるから取りに来て』
『助かる~。今行くね』
なかなか不安なことを言うスンカに頼もしい後衛組。前衛はリカバリー(回復薬)の減りが早いのだから、常にキープしていて欲しい所だが、まぁいいだろう。
こっちも何回か肩などに攻撃をくらったが、リカバリー(回復薬)で問題ない。
ゾンビ戦法が使えないこのゲームでは、戦闘不能状態になると拠点まで戻される。拠点判定は街に出入りすることで判定されるので、今の俺達はヘリコプターで送ってもらったこの砦付近の町になる。少なくとも戦闘不能状態に持ち込めば、敵であれ、味方であれ、参加人数が減るので、ここが踏ん張り処だ。細かな回復は致命傷になったとき、ロストするかしないかの瀬戸際で生き残る可能性が高くなる。
あまりケチってロストする方が損は大きい。
そんなこんなのやり取りをしていて5分ほど経過して、外壁の扉が破壊された。
味方が中庭に雪崩れ込み壁の上の人も見えなくなったので追っかけ中庭に入った。
『あぶね。』
『トウハ』
『大丈夫。隅に敵がいた。』
『了解。俺は中庭の外壁付近を探る。シクミとシコウは外壁の上の敵を頼む。トウハ、スンカは砦の扉と周辺の敵を頼む』
『『『『了解』』』』
中庭に人がいることはよくあるが、だいたい外壁の扉が破壊される前に砦に入る。残っているのは、たいてい砦の扉に集中する攻勢側の後ろから攻めるためだ。
外壁の上は、だいぶ減っていても、いなくなったわけじゃないし、増員の可能性すらある。撃たれ放題にならないように対処する必要はある。
外壁の扉に少し時間が掛かったから、こちらも多少手間取るのは間違いない。攻勢側の人数確保は必須とも言える。
外壁側にグレネードランチャーを乱射。当たるかどうかよりも、グレネード(手榴弾)という範囲攻撃の特性を活かして、探りに行くより攻撃して確かめる。予想通りに何人かいたようで、キル数が上がった。
あぶり出された奴が物影から出てくるのをグレネードランチャーの物量圧しで攻める。
こんなことならドローンを飛ばすべきだった。
このゲームでのドローンの役割はレーダーの補助。通常の常設のレーダーは人がいることが判るけど、その程度で、敵も味方も判らないが、このゲームのドローンは敵味方の判別が出来るので無駄弾を減らせる……。
久々の砦の防衛戦で、準備の不備のある自分へ苛立つが仕方ない。
『もうすぐ開くぞ。突入準備』
『『『『了解』』』』
トウハが呼びかけ、みんなで呼応する。呼びかけから数秒で砦の扉が開いた。攻勢側が一気に雪崩れ込むが、扉前にショットガン持ちが待っていたのか、多少手間取ったようだ。それでも人数が多い分、物量圧しで中に雪崩れ込んでいる。ここからが本格的な勝負だ。すでに10分は経過している。残り5分を切った状態だ。俺も砦の中に突入する。
部屋の確保もそれなりに時間は掛かる。誰もいなければ、ただ部屋の中で待機。敵が来たら応戦で済むが、部屋の中に敵がいれば、倒す必要がある。至近距離過ぎて逃げ場も無いのでリスクが非常に高い。
ささやかながら、味方が占拠した部屋はドアの色が茶色から濃いめの緑色に変わるので、味方の部屋に突撃することはない。
まずは兎にも角にも奥に奥に進む。砦は螺旋状の道になっていて屋上まで続いており、内側と外側に部屋がある。5階層20部屋。外観とマップの違和感はご愛嬌としてもシンプルな構造で助かる。
先に入った面々が戦っているところに乱入するよりも一番奥。屋上付近まで行ければ、部屋確保後の取り戻しに来られる感覚が経験上少ない。
ただ、部屋の外で待機する面々とはガッツリ戦う必要がある。俺は銃からナイフに切り替えてガンガン道中を進む。銃からナイフに切り替えたのは敵と接近しすぎて照準を合わせるのが面倒なのと、マシンガンのような制圧出来る連射武器ではないから。また、近接武器はこういうときでも無いと使わないので、この方法を楽しむようになった。
ちらほらと敵が出始めた。味方がほぼ部屋に入ったのだろう。
『あと2分。耐えるよ』
『『『おう』』』
スンカの呼びかけに応えつつ、俺も部屋に入った。中には3人。油断してくれていたのか入ったときに撃たれずに済み、俺はそのまま突進。見当違いのところを連射する敵をナイフで攻撃。当たったかどうかよりも手数が欲しいので、次の敵にナイフを振るい、後ろになった敵に向かいナイフを振るう。相手が冷静に対処する前に制圧しなければ、体感的にロストする確率が高い。単純な動作になってしまうが、攻撃を続けてなんとか制圧することが出来た。
部屋の中は一人。残り時間は1分を切っている。制圧状況を知りたいが、この状況で敵に雪崩れ込まれると対処が遅れるのでガマンだ。
とりあえずリペアで回復させつつ、終了を待つしかない。
少し長めに感じる時間が過ぎて、終了のアナウンスが入った。俺達、攻勢側の勝利だ。
砦の防衛戦のミッションに勝利すると。勝者側は砦に残り、敗者側は、最後に拠点判定された場所に瞬間移動というか。強制移動させられる。
これはミッション中にロスト。敵に倒されても同様の状態になる。
『祝!生還』
『おめでとスンカ。久々の生還』
『シクミちゃん』
スンカとシクミは生き残ったみたいだ。いつものように無線でじゃれてる。
『ちょっとヒヤヒヤでしたね。部屋の占有率65%』
『比較的少ないくらいか』
『5%で1部屋だから、3部屋分の差ですね』
『お~い聞こえるか~』
シコウと話しているとトウハが呼びかけてきた。
『どうしたトウハ。』
『すまん。ロストした。町で待っとくか?』
どうやらトウハは、砦の防衛戦の部屋の奪い合いの時に脱落して、最終立ち寄り拠点の町まで飛ばされていたらしい。
『おつかれ。みんなもだけど、ギルドルームに直帰しようか。後のことはそこで決めよう』
『了解。』
ギルドルームへ瞬間移動するアイテム。ワーフゲードは、所属国の領内ならばギルドルームまで瞬間移動が出来る。所属国になったここからなら一気に戻ることが出来る。ギルドに所属している特権になる。
『次も行く?』
『そこら辺も戻ってからにしないか。』
『わかった』
『『了解』』
『ギルドアイテム ワープゲート 帰還』
ギルドアイテムを音声で選択して、発動ワードを呼称すると、目の前の景色が砦の殺風景な部屋から、ギルドルームの部屋の中に変わる。
「お、来たな」
「おつかれ。」
トウハが出迎えてくれた後、俺の後にシコウも戻ってきた。
「全員で生還したかったんだがな」
「しょうがないさ。そんな時もある。」
「部屋に入った途端にやられたよ」
「しっかり守られてたのか」
「どうかな。もしかしたらドアに向かってショットガンを撃ちまくってたのかもな」
「うわぁ。罠というか逃げれない奴じゃないですか」
「現実はわかんないけどさ、部屋の中の音はわからんからなぁ。ある意味必勝パターンだな、リロードタイミングならいけたかな」
「かなり難しくないかそれ?」
「だよな」
「ねぇねぇ次どうする?」
「あぁ、どうするか」
トウハとシコウと話していたら、スンカとシクミもギルドルームに戻ってきいた。
「金曜だよ。明日休みだよ。ほれほれどうする?」
スンカはやる気満々で、まだミッションをやるつもりのようだ。
「んじゃぁ、ゾンビ防衛戦線に行くか。みんなはどうする?」
「お!ガンガン攻めちゃうよ」
ゾンビ防衛戦線というのは、資金が底をついたときにでも、ある意味最低限の武器さえあればこなせるミッションで、ゲームの設定としては、ゾンビが侵略してくるので、人里への侵入を防ぐために壁を作り防衛戦線としたとされていて、ゾンビ1体につき報酬が出るという、制限時間制のミッションで、その制限時間内でどれだけ稼げるかのランキングもある。
壁の上から戦うこともあり、ゾンビに襲われることもなく、ひたすら倒していくという、作戦とかというよりも要領の良い運用を求められる作業になってしまうミッションだが、とにかく撃ちまくりたいという場合には低い報酬だが人気はある。
俺達は、なんとなくスンカに流されながら、ゾンビ防衛戦線を2回ほどプレイして、だいぶ良い時間となり、今日はお開きとなった。
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