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ゆべ小説

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ゆべしちゃんが書いた小説とかです。 幻想怪奇っぽくなってたらいいなあ。
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#逆噴射小説大賞2021

チャーチワード氏の花嫁蒐集

チャーチワード氏の花嫁蒐集

 チャーチワード氏が蒐集品に何より求めるのは珍奇さだ。
 ダマスカス鋼のバターナイフ、人皮装丁の魔術書、黒い睡蓮、始皇帝のサングラス、アボリジニ戦士の護衛等々。蒐集品の文化的価値、時にはその真贋すら氏にとっては二の次、珍奇さこそ最も心惹く要素だった。
 そんな氏が世にも珍しい花嫁を迎えたという報を聞き、ロンドンの蒐集家が集う会員制クラブの紳士達は色めきだった。
「氏は花嫁を選ぶため北米、ギリシア、

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悪魔パルマコスの悔恨

悪魔パルマコスの悔恨

 パルマコスの白い掌に赤い薔薇の花弁が落ちると、それは燃え上がり皮膚を黒く焦がした。
 彼は心臓と喉を焼きながらせり上がってくる熱にえずき激しく咳こんだ。火の粉と花弁が口から溢れ出で宙に舞い、体を触れる端から焼いていく。
 それは体のみならず存在を焼く火だった。
 遥か昔、荒野、まだ神であることが許された時代から在る己が不可逆に損なわれていく。彼は屈辱と怒りに牙を剥いて喘いだ。
 何もかもお前のせ

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女王殺しと沼地の怪奇

女王殺しと沼地の怪奇

「皆が貴女を何も出来ない小娘だと思っている、だから―」

 ソフィアは寝台に横たわる病身の母がその言葉の続きを発するのを待ったが、それは永遠に叶わなかった。動かない母の瞳にはまだソフィアの姿が映っていたが、もう何も見えてはいない。

 翌日、母の遺体は金糸の刺繍が施された白布に包まれ、マーシュ家所有の鬱蒼とした森の中にある沼地に沈められた。
 親族と弔問客が見守る中、深緑の水面は天鵞絨がたわむよう

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