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千葉県の鋸山が実写版マインクラフトだった

マインクラフトというゲームをご存知だろうか。最近は YouTube 実況者が雑談のさかなにマイクラ実況をするので、ご存じない方のほうが少ないかもしれない。

立方体のブロックで構築された世界で、森林や洞窟を探検しながら木材や金属などの資源を集め、家や倉庫を建築をしたりモンスターと戦ったりするゲームだ。累計購入数は2億を超えて世界一売れたゲームと言われている。僕も去年はじめてからすっかりハマっている。

いやその地形おかしいだろ

砂を溶かしてガラスを作ったり、植物の廃材から肥料を作ったりと、資材の入手にも細かいリアリティがあるが、プレイ進行に合わせて道具も強化されるので、最終的には山ひとつ崩して建材にするような真似もできるようになる。こういう非現実的な土木事業もマイクラの楽しみといえるだろう。

ところが、世の中には本当に建材にするために崩された山が存在する。千葉県の鋸山のこぎりやまは江戸時代初期から石材を切り出し続けたため、あちこちに直角の切れ込みが存在し、山全体がギザギザの断崖絶壁になり、まさに実写版マインクラフトと呼ぶべき景観となっている。

自然にできたとは思えない地形だが、自然でないから当然である

というわけで今回は鋸山にハイキングに行くことにした。実際は何の気なしに行ってみたら現地でそういう山だと知ったのだが、旅行記というのはストーリーが必要なのでそういうことにしておく。

鋸山は千葉県の富津ふっつ市と鋸南きょなん町の境に位置する。といってもピンと来ないだろうが要するにチーバくんの膝あたりである。「お膝元」という言葉がもっとも似合う土地といえる。JR内房線の浜金谷はまかなや駅から歩いていける。

青空に溶け込むような駅舎だ

山頂に至る道はロープウェイや自動車道もあるが、今回は石材の運ばれた車力道を徒歩で登っていく。江戸時代は手押し車で、大正期にはトロッコや索道(ロープウェイ)で石材を運んでいたらしい。

石畳のわだちは手押し車で運んだ跡

「車力」というと『進撃の巨人』以外であまり聞かない言葉だが、もともとは「手押し車を押す労働者」という意味である。案内板によると鋸山の車力は主に女性が従事していたらしい。力仕事なのに何故だろう。男は漁でもしてたのかな。

道路脇に古い素掘り穴がたくさん空いていた。資材置き場か何かだろうか。このままだと敵性 Mob がスポーンするので、千葉県は早めに松明を設置してほしい。

ブランチマイニングだろうか

車力道を登り終えると石切場に至る。タリバンに破壊されたアフガニスタンの仏像跡みたいになっている。さすがにこのサイズの石を一度に切り出したわけではなく、数十センチずつ切り取っていたようだ。

よく見ると切り出した断面に縞模様が見える

展望台から東京湾を一望できる。対岸に見えるのは神奈川県の三浦半島、ペリーが来航した浦賀らへんである。対岸までの距離は10kmほど。フェリーで40分で行ける。

展望台からの眺め

天気がよければ伊豆半島や富士山まで見えるらしい。この日は西側の雲が厚いので何も見えず。

房州低名山という謎の肩書

いちおう山頂まで登ったが、この山のメインは石切場と寺社なのであまり見るものはない。観光マップでの扱いもなおざりである。「房州低名山」という肩書がおもしろかった。329.5mというのは千葉にしては高い方なのだが。(千葉県の最高峰は408mで、「最高峰が最も低い県」として知られる)

山頂をあとにして山腹にある日本寺に向かう。イギリスの寿司屋みたいな名前だが聖武天皇の勅詔で開設された歴史ある寺だそうだ。となると国分寺のひとつなのだろうか、と思ったが調べてみると安房国分寺は別のところにある。なぜ国家の代表みたいな名前なのかは不明だ。

受付窓口のおじさんに「16時に閉まっちゃうから早く見て」ということを言われる。まだ14時半だし急がなくてもいいのでは? と思ったが、寺院の敷地がかなり巨大なのである。

百尺観音

石を切り出した跡に観音像が造られていたりする。音響がいいのでコンサートが行われたこともあるとか。

名物・地獄のぞき

ここの名物は地獄のぞきと言われる展望台。これも自然の地形ではなく、石材の切り出しを一箇所だけ残しておいた結果こうなったらしい。国内最大級の遠慮のかたまりである。「日本寺」を名乗るだけはある。

自然の地形でこういう奇岩を見ると「この岩は何万年もあるわけだから、まさかこのタイミングで崩れたりはしないだろ」と思って平気で登るのだが、この地獄のぞきはせいぜい数百年だろうからスリルが2桁分くらい増す。ただ岩からの景色はわりと普通の高所なので、むしろ岩自体のほうが見栄えがする。「地獄のぞきのぞき」である。

ひとしきり寺を見て、ロープウェイで海岸沿いまで降りる。かつて石材を運んだのとは全然違う旅客用のウェイである。

下山はロープウェイを使う

鋸山から切り出された石材は「房州石」というブランド名で江戸に出荷され、横浜港の建設にも大量に使われた。山の形が変わるほどに石が切り出されたのは、この海沿いという立地のためである。

近代以前は陸上よりも海上輸送が発達していたので、海沿いの石切場から切り出された石材は驚くほど遠くへ運べる。たとえば岡山県の前島という島は、140km離れた大坂城の石垣を切り出した跡地が残っている。

このため戦後になってトラック輸送が発達すると、房州石は栃木県の大谷石に取って代わられたという。大谷の採石場と言えば特撮ファンにはおなじみの場所だ。

「輸送性」という観点からマイクラを見ると、あの世界にもロバやトロッコによる貨物輸送はあるのんだが、プレイヤーが持てる荷物が多すぎて、資材調達において「立地条件」を活かす機会が少ないきらいがある。このへんは何か適当な縛りを加えると面白くなるかもしれない。

なおマイクラは次のアプデでチェスト付きボートが実装されるので、初期段階での海上輸送の拡大に期待ができそうだ。

Minecraft Live 2021: Update Highlights 1:12 (YouTube)


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