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ぶっちゃけ、学校でやる美術って役に立つんですか?【美大卒が回答】

back checkのプロダクトデザイナーをやっている青野です。
ROXXのデザイナーたちがキャリアをふり返っていたので、私もそのテーマにならって学生時代を書いていきます。

先に、タイトルに対するアンサーを言うと
「大いに役に立ったよ!!!」
です。

「デザイナーになってるんだから役に立ってて当然じゃん」と思ったかもしれないんですが、いわゆるクリエイターにならなかったとしても、美術で学んできたことは自身の土台になると考えています。やったこと学んだことを時系列にふり返っていくので、ぜひ読んでみてください。


ざっくり年表

  • 中学3年生

    • 突然、美術系の高校を受験する!と決意

  • 高校1〜3年生

    • 美術系の高校で学ぶ

  • 浪人1年

    • 大学受験に失敗。ひたすら技術を磨く

  • 大学1〜4年生

    • 美大で学ぶ

  • 大学卒業後の経歴は、Wantedly に記載しているので割愛

この経歴はめちゃくちゃ気に入ってて、もっと進学の選択肢に「美術コース」を選ぶ学生が増えたらいいのになと思うくらいです。



中学3年の秋「美術系の高校に行く」と決めた

それまでは どこの高校を見学してもピンと来なくて、周りの人が勧めてくれた学校に行けばいいやとなんとなく考えていました。

ぼんやりした私を母が心配して「美術コースのある高校はどう?」と薦めてくれたのがきっかけでした。
美術ってあのイラスト部でしょ…と思っていたら「家を建てるのも、家具もテレビも、あなたの好きなバレエの衣装や舞台だって、せんぶ美術の分野なんだよ」と言われ、はじめて楽しそう!とわくわくしたのです。

美術の成績は3。試験には習ったことがないデッサンがある。受験まであと4ヶ月もない。当然、担任をはじめいろんな先生方には猛反対されました。ですが、行く!と決めた心は全く揺らがず、地元のデッサン教室に通い始めます。結果、デッサン力の足りなさは他の試験科目(国語・英語)や面接でカバーできたのか、なんとかして行きたい高校に合格しました。



つくることがひたすら楽しい高校生活

行った高校は、八王子高等学校 芸術コース 美術専攻(現:総合コース 美術系)です。

芸術コース美術専攻の授業は、英語、古典、数学、世界史など基本的な科目もありましたが、半分は美術の授業です。3年生になると多いときは 5限目から8限目までずっとデッサン…と本格的な時間割でした。

もちろんデッサンだけでなく、テキスタイル、彫刻、美術史など、さまざまな基礎も学びます。学園祭で生徒がつくった作品が並ぶので、ぜひ行ってみてください。

お題:生命。イタリアから来た大理石を彫った

先生や友達と一緒に、あらゆる素材に触れて試行錯誤していくことは、単にものごとの良し悪しを判断するのではなく「素材の性質と自分のしたい表現に、ちゃんと向き合った結果 いい作品になるよね」というのを繰り返し実践して学ぶ経験だったと思います。(当時はそんな深く考えずに目の前のことで精一杯でした)

目標は与えられるのではなくて目標自身を自分たちで考え出す。そして、評価の基準そのものを自分たちで創造していく。そういう鑑識眼的な評価をもっと大事にしないといけない。鑑識眼的評価は、これは技術や芸術関係では当たり前のことです。

美術教育から<学び>の変革を! 佐伯胖



美大受験に失敗。
がむしゃらに描くだけが努力ではない

美大受験が近づいてくにつれて焦っていました。「描いてても何がなんだかわからない」という完全なスランプに陥ったまま受験に突入。すべての大学に落ちて、浪人生活がスタートします。

美大受験の雰囲気を知りたい方はブルーピリオドをどうぞ。私はリアルさがしんどくて、4巻あたりで挫折しました笑


予備校では長くて1日半、早くて3時間で1枚の絵を仕上げ、即座に順位をつけられ講評されます。毎日の順位付けにメンタルもしんどくて、泣くことが多かったです。浪人生みんな、胃薬を飲んでいた気がする。

先生や、クラスにいる上手な子に相談したりしてるうちに「いい絵」が描けるようになるためには、がむしゃらに枚数をこなすだけではないことがわかってきました。

それは、順位が低かったものは上位にいくレベルになるまでやり直す・評価されてる絵を分析する・課題に対する解釈や表現が適切か考えるなど、もっと意図をもって行動すると良いということです。
わかり始めると上位にランクインすることも安定していき、だんだん自信が持てるようになりました。

お題:鏡面立体(想像)とアネモネ。左が1枚目で、右が再チャレンジしたもの

努力とはどういうことか?を肌感覚や実践でわかるようになったのは、その後の人生にもすごく活かせていると思います。



美大での実践知。
デザインは、面白くて、泥くさい

つらかった浪人を乗り越え、晴れて美大生へ。多摩美の情報デザインコースに入学しました。美大の概要については、こちらのnoteが分かりやすかったです。


大学3年から、須永先生の CRESTによる様々なプロジェクトや研究 に参加させてもらうようになりました。(CRESTの記述がネット上だと少ない…)
ざっくり説明すると、他大学と共同研究したり、企業と共同プロジェクトを行います。普段の課題と並行したり、夏休みも他大学に行って取り組むなどして精力的に活動していました。

須永先生から学んだことをいくつか紹介します。

1)言葉で説明できないものはない

自分の作品を、人に紹介するとき「作ったものはこれです」と言うことが大問題だという指摘を受けました。
それまでは 言葉にするのが難しいから作品にして表現するんじゃん!と、言葉を重要視してこなかったのです。「何を作ったのか、どんな形状なのか、作品の良さ、プロセス、すべて言葉で説明できるんだよ」と言われ当時はすごく驚きました。デザイナーになった今、言葉できちんと説明できることが、ひとつの責任でもあると感じています。

美大では珍しいかもしれないですが、つくったものを デザイン学会 でも発表したりして、言葉にする練習をしました。


2)デザインの対象は、経験をふり返ることで見つける

「経験をふり返ると、デザインすべき対象が見つかる」という考えのもと、自分自身の経験を 絵と文章で描き起こして見つめる作業がありました。
要するに絵日記です。こうやって描き出すと初めて自分が何に心が動いたのかわかるんだと発見しました。と、同時にじわじわとメンタルも削がれていきました。

当時描いた絵日記

経験を見つめれば見つめるほど「私にできることなんて何もない…」と起きたことに圧倒されたり、反復してふり返るたびに羞恥も出てきたり、自分が空っぽな人間のように思えたりして、だんだん病みそうになっていくのです。

そうして「もう何も作れない…何も思いつかない…」と頭を抱えていると、須永先生がこう言いました。

「ゆうちゃん、最後は超能力だよ!!超能力でひねりだすんだ!」



とりあえずやるしかないんだな。と、なんとかしてデザインの対象を定め、つくり、卒業に漕ぎつけることができました。(4年生でやる卒業制作の話でした)

このときのことは、未だ咀嚼しきれてないのですが、

・デザインはかなり泥くさい分野
・現実、経験、体験は、想像以上に複雑
・とにかく何かをつくってみると前進する

というのはわかったかなぁって感じです。
早いうちにできごとの複雑さを知れたことで、物事を見つめるときの視座が上がったように思います。また、仕事でも「最後は超能力」というパワーワードには何度も助けられています。



結局、美術やデザインはなんなのか

まだまだ成長していく必要はありますが、上に書いたように自分が活動していくときの土台になってくれるものだと感じています。
すべてのものに美術の分野が関わっていること、目の前にある性質や自分のしたいことに向き合うこと、努力できている状態を知ること、きちんと説明するべきであること、とにかくやってみると前進すること、などなどなど。

もっと言うと、美術やデザインは、よりよい社会にするための学問だとも考えています。一人ひとりの活動と社会は地続きだからです。

この分野についてもっと考えたくなった方は、巨匠たちの本をいくつか紹介するので読んでみてください!このnoteで、美術を学ぶって面白そうだなぁ、美術の学校にいってみたいなぁと思うきっかけになったら幸いです。


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