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納豆とテレビ好きの奥さんによくスルーされる優しい?紳士50歳ぐらいの《結城勇樹》さんは---あの時の---【前編】〈カフェ13 勇樹1前〉

カランカラーン。

ドアが何となくゆっくり開いた。

「いらっしゃいませ」

私が言うと、恐る恐る男性がドアを開けて覗いた。店の中をキョロキョロ見渡すとゆっくり入って来た。

スリムな体型で黒のコートにジーンズ、ちょっと白髪が混ざった面長で目の優しいダンディーな感じの紳士。

「宜しいですか?」

「どうぞどうぞ、お好きな席に座って下さい」

私が言うと

「あの、先日は失礼しました」

そう言った。

「先日?」

私はちょっとわからなかった。

「あの、酔っ払って何か失礼な事を」

--- ん?

「あぁ、あの時の。お化けの---」

冬矢君をお化けと間違えて騒いだ人だ。あの時の--- だけど正直あまり覚えていなかった。暗かったし。あまり人の顔をよく見ないから。

「あの時は、本当にすみませんでした。久しぶりに飲み過ぎまして」

男性は申し訳なさそうに言った。

「いえいえ大丈夫ですよ。そんな別に何もありませんでしたから」

私はそう言ったが

「いゃぁ。あの日帰って奥さんに叱られましてね。(酒臭い)とか大声で言われて酔いがサーッと覚めましてね。その時思い出したんですよ。真っ白い物体を見て騒いだ事。記憶をたどって今日は土曜日で休みなんで来てみたんですよ」

男性は黒いコートを脱いだので私は手を差し出した。

「あ、すみません」

そう言って男性はコートを私に渡した。

「まったく大丈夫ですよ。来て頂けたのは嬉しいですよ。どうぞどうぞお好きな席に座って下さい」

そう私が言うと、男性はカウンターの左端の椅子に座った。

「たぶん見間違えた白い物体は、お客さんだと思いますよ。真っ白いコートで白ずくめの姿でしたから」

私はちょっと笑いながら、おしぼりと水の入ったグラスと淡い青いコースターを置いた。

「そうだったんですか。お笑いですね。ちょっと酔っ払ってました。恥ずかしいですよ。実はお化け苦手なもので」

男性は照れながら言った。

「いえいえ、あれは間違えますよ。うふふ」

確かに、私も冬矢君が窓から覗いた時はビックリしたから。

「綺麗なコースターですね。他の色もあるんですか?」

「はい」

私はそう言って七色のコースターを見せた。すると男性はコースターを見てカウンターの後のガラス棚を見た。

「コーヒーカップも七色ですか?。ぁ〜、だから虹色カフェ。素敵ですね。カップは選んでもいいんですか?」

「はい、もちろん。お気に入りはありますか?」

「そうですね」

男性は、ちょっと嬉しそうに見ていた。

「では、オレンジ色で」

「ぇっあ、オレンジ色って橙色ですね」

ちょっと、橙色は意外だった。どちらかというと青系かと思ったから。

「暖かそうな色がいいですね。宜しくお願いします。あ!、あの、コーヒー380円でコーヒーだけって本当ですか?」

男性が聞いてきた。

「はい、コーヒーだけなんです」

私はそう言ってコーヒーを準備した。

「へぇ、面白いですね。でも何かいいですね。ママ一人でやっているんですか?」

「はい、気ままにやってます」

私は、コーヒーを橙色のカップに入れてコースターの上に置いた。男性は時々店の中を見渡したりしている。

「コーヒーも美味しいですね」

「ありがとうございます。私のオリジナルブレンドなんですよ」

「へぇ、美味しいですね」

男性は、ゆっくり味わいながらコーヒーを飲んだ。

「今日は休みなんで、掃除洗濯して来ました」

「一人暮らしなんですか」

「いぇ、奥さんと子供が二人いますけど、掃除洗濯は私の役目なんですよ」

「ですよね。さっきお酒臭いって奥さんに叱られたって言ってましたものね」

--- 奥さん居ても掃除洗濯するんだ。

男性は淡々と話す。

「ま、いいんですけどね。ちょっとふらっと思い出して来てみたらカフェってあったから寄ってみました。コーヒーももちろん飲みたかったから」

「ありがとうございます。嬉しいですよ本当に。ゆっくりして行って下さい」

優しい感じの男性。

「あ、私〈ゆうき〉と言います」

男性はそう言った。

「〈ゆうき〉さん?。名字が〈ゆうき〉さんですよね」

名前にも〈ゆうき〉は考えられる。

「はい。当たりです。でも違います」

「え?」

「実は私は〈結城勇樹〉名字も名前も〈ゆうきゆうき〉なんですよ。名字の〈結城〉は、結ぶに城。で、名前の〈勇樹〉は、勇気の勇に樹木の樹なんです」

「あらま」

「親に聞いたら面倒だったからとか言われましたけどね」

勇樹さんは、苦笑いした。

「確かにちょっとビックリしますけど、でも綺麗な名前ですよね」

「そうですか?。実は奥さんの名前も〈悠希〉ゆうきなんですよ。悠々自適の悠に希望の希」

勇樹さんはニカッと笑った。

「あらま」

「実は子供も」

「エッ!。お子さんも〈ゆうき〉さんなんですか?」

私はビックリした。

「いや、さすがにそれはありませんが、実は」

勇樹さんは、ちょっとゆっくりコーヒーを飲んで言った。

「実は家の奥さん。めちゃくちゃ納豆とテレビが好きでして。それも、サスペンスと刑事もの」

--- ???名前と関係あるの?

勇樹さんは、ちょっと呆れて話し始めた。


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#小説 #カフェ #紳士

#名前 #奥さん













🌈☕いらっしゃいませ☕🌈コーヒーだけですが、ゆっくりして行って下さいね☘️☕🌈