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納豆とテレビ好きの奥さんによくスルーされる優しい?紳士50歳ぐらいの《結城勇樹》さんは---あの時の---【後編】 〈カフェ15 勇樹1後〉

「あの日、雪が降って来て寒いから仕事から帰る時に奥さんに連絡したんですよ。ラインで。〈お風呂沸かしといてくれ〉って」

勇樹さんは、また一口、コーヒーを飲んだ。

「そしたら、〈OK〉って返信が来たんですよ。私は寒いから急いで帰りました。お風呂に入りたくて入りたくて。鍵を開けて、(ただいま)って言ったんですよ。で、寒かったからカバンを置いてコートを脱いで、狭い家ですからお風呂は玄関の傍にあるんですよ。だから急いで脱衣所に。すぐ服を脱いでお風呂場に入ったんですよ。--- ?ま、ちょっと嫌な予感はしたんですけどね。沸いてる筈なのにちょっとお風呂場が寒々としていたから。で、お風呂の蓋を開けたら。--- 案の定ですよ」

--- 案の定?。

「空っぽ。(えぇ〜)って叫びましたよ」

「あら---」

「私、裸ですよ。寒い中帰って来たのに。慌ててバスタオル巻いて部屋に行ったんですよ。(お風呂沸いてないじゃないか)って。言ったら、(あら、あなた帰ってたの?。バスタオル巻いてどうしたの?、何やってるの?)ですよ。案の定、サスペンス見てましたよ。(ラインしただろう。お風呂沸かしといてくれって)って言ったら、(来たわよ。返信したわよ)って、(じゃぁ、お風呂沸かしといてくれよ。空っぽじゃないか)って言ったら。(あ!、もしかしたら忘れた?。ねぇねぇ、このサスペンス面白いわよ。あなたも見たら)ですよ。たまたま部屋は暖かかったから、ちょっと助かりましたけど。自分でお風呂沸かして入りましたよ。たいして広い家でも無いのに帰って来たのもわからないんですよ。ま、それはいつもの事なんですが、お風呂は沸かしておいて欲しかったですよ」

そう言って、勇樹さんはため息をついた。

「あら、それはそれは。寒かったでしょう」

そう話しながらも、何となく優しさが滲み出ている。

「まぁね。家の奥さん、いつもそうだから慣れましたけどね。でも、寒かったんですよ」

そう言う勇樹さんが何となく私は微笑ましかった。

「でも、あの後入ったお風呂は最高でした。温かくて最高に癒やされましたよ、アハハ」

今度は、そう言って笑う勇樹さん。何か羨ましくなった。

「うふふ。仲いいんですね」

私が言うと。

「はぁ?。ママ、仲良かったらお風呂沸かしといてくれるでしょう。第1にテレビ。サスペンスに刑事もの。第2に納豆。第3に、たぶん子供。私は、圏外ですよ」

勇樹さんは、ちょっと淋しそうに言った。

「でも、ちゃんと帰っているじゃないですか」

「私の家ですよ。他に帰る所は無いし」

「そうですか?。何か話を聞いていると羨ましいですよ。優しいんですね」

私は、そう言って微笑んだ。

「ぅ〜ん。ま、確かに。ぅ〜ん、私が優し過ぎるのかなぁ」

--- そっち?。

「掃除洗濯も私ですしね。ちょっと厳しく言ってみようかな?」

--- いや、そうじゃなくて。

そう思ったけど、私はただ、心の中で微笑んでいた。

「よし!。ちょっと頑張ってみますよ。ママ。たくさん話したらスッキリしました。いいですね、ここ。また来ますよ。ママも綺麗だし気に入ったから」

「あら、ありがとうございます」

お世辞でも、ま、嬉しいかな。

たぶん50歳前後かな。殆どの家庭は、こんな感じなのかな?。いつまでも仲のいい夫婦もいるだろうし、空気みたいな夫婦もいるだろうし。喧嘩しながらも一緒に居る夫婦もいるだろうし。夫婦の姿もいろいろ。

それでも、一緒に居るだけで確かにいろいろあるだろうけど癒される事もあるから一緒に居るんだろうね。

勇樹さんは、380円支払いながら、また店の中を見渡した。

「また、いろいろ話しに来て下さいね。奥さんは、きっと勇樹さんの優しさに安心しきっているんでしょうね」

私が言うと

「そんなママが思うような奴じゃ無いけどね。でも、ママに言われると、そんな気もして来ましたよ。よし!。頑張ろう。何を頑張るのかわからないですが。アハハ」

そう言いながらコートを受け取って、会釈しながらさっと着るとドアを開けて帰って行った。

私も見送った。

人は、本当に嫌な人や嫌いな人の話しはあまりしない。口にするのも嫌だから。それに興味さえ無いからだ。勇樹さんは、きっとなんだかんだ言いながらも奥さんが好きなんだろうなぁ。

愚痴は、ここで言えばいい。聞いてて何だか面白いし。

--- うふふ。

夫婦は同じ名前。名字と名前も同じ。家族は皆同じ〈ゆう〉って名前かぁ。

お化けが嫌いな勇樹さん。真っ白い冬矢君と会わなければ勇樹さんは、ここには来なかったのかもしれないね。本当に人の出逢いは不思議。

まだまだ、寒い日は続く。


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#小説 #カフェ #夫婦

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