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僕は、定食屋さんの壁に色褪せるまで貼られているポスターを作りたい。

福島県・葛尾(かつらお)村のポスターを作りました。
写真は、この仕事に誘ってくれた上石了一さんです。

スマホでサクッと読める時代に逆行する長文で恐縮ですが、このポスターに込めた思いを書いたので、どうか読んでいただけると嬉しいです。

葛尾村は、東京電力の原発事故によって住民全員が5年におよぶ避難生活を余儀なくされた全村避難の村。避難解除となった今でも人口は400人ほどで、村の存続も危ぶまれている状況です。そんな中で、地元や周辺地域の若者が中心になって、村のおじいちゃん・おばあちゃんたちとの関係を大切にしながら、持続可能な村のあり方を模索し続けている「葛力創造舎」という団体があり、僕は写真家の上石さんに誘ってもらって、その活動を応援するような仕事を少しずつ始めています。


葛尾村ポスター

いま、葛尾村の人口は382人。
その半分以上は、村のおじいちゃん・おばあちゃんです。

昔から田んぼを近所どうしで順番に手伝い合いながら、「家族のように生きてきた」という村の人たちは、震災の原発事故で散り散りになってしまったらしい。

村の存続も危ぶまれる状況のなかで、いま、地元の葛力創造舎という団体の若い人たちが、行政に線引きされた村に閉じるのではなく、人と人のつながり(村との関係人口)を広げることで、葛尾村を存続させようと奮闘しています。
(葛力創造舎:https://katsuryoku-s.com

避難先に移住した人が村に帰って来れる機会を作ったり、田植え体験や学生インターンなどで村外の人との関係を作ったり、村の米を使った日本酒やどぶろくを商品化したり。

文字にすると、よくある村おこし事業に見えるかもしれないけど、彼らの活動はいちいちすべてが、「村の人が喜ぶかどうか」で作られている。

村の先輩であるおじいちゃん・おばあちゃんの話を聞き、教えを乞い、村のために何ができるかを考える。

実際、彼らのホームページには、村長をはじめ、100人近い人たちへのインタビューが掲載されています。
https://katsuryoku-s.com/interview

決して村の人の気持ちを置き去りにしないこと。
彼らはそんな活動を9年間続けて、少しずつ村の輪を広げてきました。

今回のポスターをつくるという話をもらった時も、
葛力創造舎の代表・下枝さんに言われたのは一つだけ。

「村の人が喜ぶようなポスターを作りたいんです」。

村の人が愛せないようなポスターを、村に貼るようなことはしたくない。逆に、もしも村の人が喜んでくれるようなポスターができたら、それはきっと貼りたくなると思うし、そういう想いで貼られたポスターを見て、一人でも葛尾村に興味を持ってくれたら、それでいいんです、と。

ちなみに、下枝さんは葛尾村で生まれ、村に高校がなかったため、中学卒業後に村を離れ、大学・社会人と東京で過ごし、震災の後に村に戻って葛力創造舎を立ち上げた人です。

下枝さんの話を聞いて、
ああ、この人は、村の人に対して誠実だなと思った。

そして、広告も本来こうあるべきなんじゃないかな、と。

どうすればバズるか(SNSで拡散されるか)、
広告屋の端くれとして、そういう発想も否定はしないけど、最近あまりにもアザとい魂胆が透けて見える広告も多く、ひとりで勝手にイラついたり、モヤモヤしたりしていた。

だから僕は下枝さんの考えにすごく共感したし、なんとか期待に応えられるようなポスターを作りたいと思った。

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写真のモチーフになっているのは、「祝言式」という村の結婚式で、村の内外から人が集まって、花嫁と花婿が田んぼを練り歩く祝いごとです。

撮影の合間に、僕はポスターに写っているおばあちゃんに話を聞いた。
むかし、馬を飼っていたこと、
育てた馬が中央競馬を走ったこと、
タバコの葉を育てていたこと、
村のみんなで家族のように助け合う「結」という文化のこと。

おばあちゃんは、ニコニコと撮影の様子を眺めながら、ぽつり、ぽつり、と話してくれて、最後に僕にこう言った。
「あんた、晩ごはんどうすんだ?」
とくに何も決めていないと伝えると、
おはぎ作ってやるから後で取りに来い、と。

そのおはぎは、おばあちゃんが育てたじゅうねん(エゴマ)のおはぎで、野球のボールみたいに大きかった。このおはぎみたいなポスターができたらなぁと思った。

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僕は、ポスターをつくる仕事に憧れて、コピーライターになった。
短い言葉と、シンプルなビジュアル。駅やお店の片隅にずっと貼られていて、いつから貼ってあるのか分からないくらい色褪せたりしていて、それでも一度見ると心から離れない、そんなポスターに憧れていた。

ブランディングとかマーケティングとかSNSとか、広告やコピーの世界はどんどん複雑になっていくけど、ポスターこそが広告の魂だと思う。

村というより、
家でありたい。


葛尾村の空はひとつの大きな屋根で、
みんな家族みたいにつながっている。
どんなときも結のこころを大切に、
やさしさを分け合って生きてきた。
いつ帰ってきても、あったかい。
想いでつながる幸せが、この村にはある。
われら、葛尾。
この風景が、田んぼが、人が、
私たちの家。

このコピーを書いて、
上石さんに見せ、下枝さんに見せた時に、
二人はまったく同じことを言った。

「これ、何度でも読めますね。」

このポスターが、村の定食屋の片隅に、油でベトベトになっても貼られていて、村の家族や、村に帰ってきた人が見るたびに、少しでも頷いてくれたら嬉しいなと思います。

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後日談

ポスターの刷り上がりと一緒に野菜が届いた。こんな仕事は初めて。どれも葛力創造舎の畑で採れた野菜。そして、リポDが入ってるやさしさ。

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