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【小説】未来から来た図書館 -8-

少しだけふり返ってみると、サクラさんはボクの次に並んでいたおじさんの本を受けとっていた。
サクラさんは、いつも笑顔で誰にでも優しいけど、ボクには少し意地悪なときもある。
肩よりも長い髪は、黒と茶色の中間くらいの色で、いつもキラキラしていた。
あんなに細いのに、時どき、たくさんの本を抱えて二階からおりてくるから、ボクよりもずっと力持ちなんだと思う。
ためしに力こぶを作ってみたけど、自分の白くて細い腕がイヤになるだけだった。

サクラさんがかけている赤い色の眼鏡は、サクラさんにとても似合っているとボクは思う。
綺麗で優しいけど、時どき、ちょっと意地悪なお姉さん。
ボクはそんなふうに思っている。
でも、本当はどんな人なんだろう。
サクラさんの本もあれば、もっといろんなことがわかるのに――。

そんなことを考えながら歩いていると、雑誌コーナーの隅にある銀色の柱にぶつかった。
柱はゴウンと鳴って、鏡のような表面にボクのあとが残った。
ボクがゆっくりとふり返ると、受付でサクラさんが声を出さずに「だいじょうぶ?」と言ったので、ボクは二回うなずいた。
恥ずかしくて、少しだけ身体が熱くなった。

児童書コーナーにつくと、ボクは今日読む本を探しはじめた。
ボクのお気に入りは「なぞなぞ探偵団」シリーズだ。
もうすぐ最新刊がくる、とサクラさんが言っていたので、おいてあるか確認する。
ボクの身長と同じくらいの本棚は、三段に分かれていて、その真ん中の段と一番下の段に「なぞなぞ探偵団」シリーズがおかれている。
最新刊だから最後におかれていると思うので、一番下の段を探してみる。

ちょうど真ん中あたりに、ボクが見たことのない本が一冊はさまっていた。最新刊だ。ボクはその本を本棚から引きぬいた。
表紙には「氷の国の迷宮」と書かれていた。
「迷宮」という漢字の上には、「ラビリンス」とふり仮名がふってあった。
「めいきゅう」なのに「ラビリンス」と書かれていることに、ボクはワクワクした。



*** 2022.03.24 表記の揺れを修正


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