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【小説】未来から来た図書館 -6-

次の日の朝――。
ボクはいつものように、お気に入りのスニーカーに足を入れると、つま先を地面に打ちつけながら、玄関らか言った。
「図書館に行ってくるから」
リビングから母さんの声が返ってきた。
「この前、借りた本、ちゃんと持った?」
「持った」
ボクは図書館専用に買ってもらった丈夫そうなリュックに目をやった。
「昨日持っていくの忘れたんだから、今日は返しなよ」
「うん」
ボクは「いってきます」を言って玄関を出た。

行きは近道を通る。うちを出ると、北にむかって曲がった坂道をのぼる。
一時停止の標識がある三差路の前に、西へとむかうあぜ道が通っている。
あぜ道は幅が四十センチほどあるので、歩くのには十分だ。
長い草が生えていたり、石ころが転がっていたりするので、歩きやすくはないけど、早く目的地に着くためには、これくらいの試練はしかたがない。

時どき、ズボンの裾に「くっつきむし」がついていて、サクラさんに近道をしたのがばれることがある。
危ないから近道はダメだと言われているので、最近は図書館に入る前にちゃんと確認して、ばれないように心がけている。
図書館の前まで来ると、最後に用水路が待ちうけている。
ここを飛びこえると、目的地だ。

用水路の幅はそれほど広くないけど、深さがボクの腰くらいまであって、真上から見ると思ったよりも深く感じる。
それに、水が勢いよく流れているせいか、ここでちょっとだけ立ち止まってしまう。
でも、いつも通り、最後の難関を見事に突破し、ボクは公道をわたって図書館の階段をかけ上がった。

ブゥンと音がする自動ドアを通ると、すぐ右側の受付にサクラさんが座っていた。
「近道したでしょ」
ボクは急いでズボンの裾を確かめてみた。
でも、今日は「くっつきむし」はついていなかった。
「やっぱりぃ~」
サクラさんは、ちょっと意地悪な顔をして笑った。
ボクは、どうしてばれたのかわからなかったので、リュックをおろしながらサクラさんに訊いてみた。
「なんでも、わかっちゃうんだよねぇ~」



*** 2022.03.24 表記の揺れを修正


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