見出し画像

【小説】未来から来た図書館 -7-

サクラさんはボクが持ってきた本を見ながら、コンピューターにカタカタと何かを打ちこんでいた。
二冊目の本を見ながらキーボードを打ち終わると、サクラさんは顔を上げた。
「そのリュックいいね」
ボクが抱えているリュックを見ながら、サクラさんはそう言った。
「前まで使ってたのが壊れたから」
「そっか。この前、ひもが切れちゃったもんね」

一ヶ月くらい前に、本を借りて帰ろうとしたときだった。
自動ドアの前で突然リュックのひもが切れた。
あっと思う間もなく、ドサッという音をたててリュックは背中から落ちた。
抱えて帰ろうと思ったけど、ちょうど五時前だったので「十分くらい待ってて」とサクラさんに言われて、ボクはサクラさんを待つことにした。

ボクがスロープのとなりで待っていると、図書館の戸締りをしたサクラさんが、ボクが通ったことのないドアから出てきた。
サクラさんは、ボクが抱えていたリュックを自転車にのせてくれた。
それから遠回りの道を通って、ボクのうちまでふたりで歩いた。

「また明日ね」
うちの郵便ポストの前で、サクラさんは手をふって、自転車に座った。
「えっと、ありがとう」
なんだか上手く声が出なかった。
ちゃんと聞こえたかな、と思ったけど、サクラさんは、にっこりと笑ってくれた。

そのことを母さんに話すと、新しく丈夫そうなリュックを買ってくれた。
それから、ボクは図書館専用にこのリュックを使っている。
「はい、おわり」
サクラさんは、ボクが返した本をトントンとテーブルでそろえると、ボクに貸出カードを返してくれた。
ボクはカードを受けとると、児童書コーナーにむかった。



*** 2022.03.24 表記の揺れを修正


いただいたサポートを力に変えて、さらに精進していきます! サポートは、活動費として、大切に活用いたします!