【物語】クリスマスの夜に
物音で目が覚めた。
ぼくは、大学を卒業してから、ひとり暮らしをしている。部屋は、キッチンと洋室が別になった1K。物音がするのは、キッチンからだ。
ゆっくりと布団から出て、勢いよくドアを開く。暗闇の中で、人が立っている。
「誰!」
「すまん、すまん。起こしてしまったね」
身構えながら、電気をつけた。
真っ赤な服に、真っ白な髭。
え、サンタ?
「ワシは、サンタクロースじゃ」
見ればわかるけど、本物かどうかは証明できない。確かに今日はクリスマス。生きていて一度も会ったことのないサンタクロースに、成人してから会うとは思わなかった。
「えっと。プレゼントですか?」
「大人にはプレゼントという形では、届けていないんじゃが、君には届けておかないと、と思ってね」
サンタさんは、綺麗にラッピングされた小さな箱を、ぼくに渡した。ぼくは、できるだけ綺麗にラッピングを外して、箱を開けた。
そこに入っていたのは、赤いミニカーだった。
「5歳のときに、届けられなかったからね」
いまさら、ミニカーをもらっても。正直、そんな気持ちもあった。けれど、そのミニカーを見て、5歳のときのクリスマスが、ふと蘇った。
あのころ、子どもたちの間で、ミニカーを集めるのが流行っていた。限定品の赤いミニカーは、クリスマス前に予約が殺到し、ぼくの手には入らなかった。
ぼくは、みんなが持っているミニカーがほしくて、大泣きした。両親をさんざん困らせたあげく、無理だと思ったぼくは、最後の望みに、サンタさんにお願いをした。
「いい子にします。だから、必ずミニカーを届けてください」
その年のクリスマスに、ミニカーは届かなかった。だから、サンタさんはいない。そう思って、諦めた。次の年のクリスマスからは、両親に店でプレゼントを買ってもらうようになった。
クリスマスに、そんなことがあったのを思い出した。
『必ずミニカーを届けてください』
その言葉を、サンタさんは覚えていてくれたんだ。ぼくが、忘れていたのに。赤いミニカーは、あのとき、どうしてもほしかった、限定品のミニカーだった。
「サンタさん、ありがとう」
「遅くなってしまったね」
「でも、ちゃんと届けてくれた」
「いい子にしてたからじゃよ」
心が温かい気持ち満たされた。
ぼくは、そこで目が覚めた。
夢だったのかな。でも、素敵な夢を見れたな。
そう思って、布団から出ようとすると、枕元にラッピングが外れた赤いミニカーが、置いてあった。新品のミニカーは、キラキラと輝いているように見えた。
夢でも、夢じゃなくても、素敵なクリスマスになった。久しぶりにケーキでも買ってみようかな。
「サンタさん、ありがとう」
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