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【小説】未来から来た図書館 -11-

ボクは玄関で靴を脱ぎながら、小さく「ただいま」を言って、二階の自分の部屋に入った。
リュックを勉強机におくと、ベッドに横になった。
なんだか頭がふわふわする。
昼下がりの陽射しが、カーテンごしに温かさと眠気をボクのもとへと運んできた。
ボクはいつの間にか、うとうとと夢の中へ入っていった。

ボクが目を開けたとき、陽射しは夜の中に消えようとしていた。
ボクはゆっくりと身体を起こして、ベッドの脇にある目覚まし時計を見た。
七時二分。今日はなんだかぼんやりとした一日だった。
ボクがベッドからおりて立ち上がると、一階から声が聞えた。
「ご飯、できたよ」
母さんの声とともに、夕飯の匂いがとどいてきた。
今日は麻婆豆腐か麻婆茄子だ。

ボクは、一階におりてテーブルの前に座った。
「寝てたの?」
母さんは、ご飯をよそいながら、ボクに言った。
ボクは「うん」と短く返事をした。
今日は、父さんは仕事で遅くなるようで、ボクと母さんの夕食だけが準備されていた。
テーブルの上には、麻婆茄子、鰹のたたき、それにキュウリとワカメの酢の物が並んでいた。
また、キュウリがある……。

近所で農家をしている佐竹のおばちゃんが、時どき、野菜を持ってきてくれる。
でも、その量が、どんな野菜でもコンテナいっぱいに入っている。
ボクのうちは、父さんと母さんとボクの三人だから、おばちゃんから野菜をもらうと、その日から食べ終わるまで、その野菜が必ずテーブルに並んでいる。
うちの冷蔵庫の一番下の段は野菜が入っているのだけど、今はすごい数のキュウリが、刺さっているように並んでいる。
中にはぐねんと曲がったキュウリもあるので、それは母さんが先に使ってしまうか、仕方なく横に寝かされている。

昨日なんかは、ボクが「お腹がすいた」と言うと、母さんに無言でキュウリとマヨネーズをさし出された。
ボクは「大丈夫」と答えて、ひとまず麦茶で空腹をしのいだ。
刺さっているキュウリたちが、一刻も早くなくなることを願うばかりだ。



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