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【小説】未来から来た図書館 -3-

買っても買ってもすぐに読んでしまうので、あるとき、母さんから新しい本の変わりに図書館の貸出カードをわたされた。
貸出カードには、ボクの名前が書かれていた。
ボクは、それがとても嬉しかった。
大人の仲間入りをしたような気分だった。

ボクは誇らしい貸出カードを持って、図書館に通うようになった。
ボクの通っている小さな図書館は、うちから歩いて十五分くらいの場所にある。
でも、ボクは近道を知っているから、図書館まで十分もかけずに行くことができる。

見わたすかぎり広がる田園。
田園の中を通る半分舗装されたでこぼこの道。
その細い道の脇にある正方形の白い建物。
それがボクの町の図書館だ。

正方形の図書館は、のんびりとした田舎の風景に、まったく馴染んでいなかった。
まるで未来から持ってきて、そこにおかれているようで、とても不自然な感じがした。
整えられすぎているその建物は、公道から四十五度ほど傾いて建てられていた。
正方形の頂点のひとつが、公道に接している感じ。

公道に接している頂点から左側は一面ガラス張りで、その前には花や木が植えられた小さな庭がある。
反対の右側には階段とスロープがあって、のぼった先に自動ドアが設置されていた。
スロープのとなりには、ボクの身長の三倍はありそうな大きな銅像が立っていた。

その銅像は、図書館を建てた人の銅像だ、と学校で聞いたことがある。
なんていう名前の人かは覚えていない。
父さんが着ているようなスーツに、大きな革靴を履いて、仁王立ちで立っている。
ボクの身長と同じくらいの四角い台の上にのっているので、顔まではよく見えないけど、偉い人のような顔をしている。
雨の日も外に立っているせいか、涙のあとのようにところどころ色が変わっていた。

ボクは、この人が未来に行って、正方形の図書館を持ってきたのだと考えている。
だから、こうやって銅像にまでなっているのだと。
建物を建てただけで銅像をおいていたのでは、町中が銅像だらけになってしまう。
この偉そうな人は、すごいことをした人にちがいない。
ただ建てたのではなく、未来から持ってきたのだ。
でも、本当のことは、子どもには秘密にしてある。
大人とはそういうものだ。



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