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【小説】未来から来た図書館 -5-

そんなふわふわとした優しい時間から、ボクをいつものボクの時間に呼びもどしてくれるのは、図書館の受付に座っているサクラさんだった。
「お~い、もう五時だよ」
ボクの目が、読んでいる本の文字を映した。
ボクはあわてて顔を上げた。
「入りこんでた?」
「はいりこんでた……」
今日もボクは、サクラさんの声でボクの時間にもどってきた。

「その本、借りてく?」
「えっと、明日、また来ます」
「そう。じゃ、もどしとくね」
ボクは本を閉じてサクラさんにわたした。
サクラさんは本を持ったまま、ボクを自動ドアのところまで送ってくれた。
「じゃ、また明日ね」
そう言って、自動ドアの前で手をふっていた。

ボクが図書館を出ると、点いていた明かりが二階から順番に消えていった。
ボクは、ぼんやり正方形の図書館をながめてから、自動ドアの前の短い階段を、いつものように飛びおりた。

帰るころには、太陽は西の空からオレンジ色の光をボクにむけていた。
ボクのうちは図書館の東側にあるので、近道をすると夕日を背中にして歩くことになる。
だからいつも、帰りはわざと遠回りをする。
図書館を南にくだって、少し大きな道に出ると、それから東にむかい、また北にむかってうちに帰る。
そのほうが、夕日をたくさん見ることができるから。

夕日に照らされた雲は、金色に見えた。
まぶしくて、ずっとは見ていられないけど、どうしてあんな綺麗な色をつけられるのか、とても不思議に思った。
雲も畑も金色に染まっている。
それは、夕日にしかできない素敵な魔法のように見えた。
方向を変えながらついてくる長い影と一緒に、ボクは優しい光の中を歩いた。
夕焼けの残りが山ぎわで漂っている間に、ボクはうちに帰りついた。



*** 2022.03.23 表記の揺れを修正


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