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【小説】未来から来た図書館 -9-

ボクは最新刊を持って、お気に入りの場所に移動した。
ボクよりもずっと高い本棚の間を通っていると、高い木に囲まれた森の中を通っているように感じた。
その薄暗い通路を歩くたびに、ボクはいつも少しだけ不安になる。
どこからか「子どもは通ってはダメだ」と声が聞えてきそうな気がするから。

通路をぬけると、陽射しが入るあの場所にたどり着いた。
そこは、森が開けた場所で、ボクが来るまでは小鳥やリスたちが話をしていたんじゃないかと思う。
いつも通り、とても静かで、今日は誰もいなかった。
窓の外にある細長い植物は、少しだけ風に揺れていた。
なんていう名前の植物かは知らないけど、葉っぱは、写真みたいにつやつやとした緑色をしていた。

ボクは、黄緑色の丸いソファーに座った。
最新刊をテーブルにおく。
表紙を開くと、まだ誰も読んでないのか、パリパリと音がして、表紙がもとにもどろうとしていた。
ボクはそっと表紙を押さえて、最初のページを読みはじめた。

「なぞなぞ探偵団」は、いろいろな謎を解きながら、事件を解決していく物語だ。
ボクくらいの年の三人の少年と一匹の犬が謎を解いていく。
ボクは謎を解くのは大好きだけど、探偵団の三人のことは、時どき嫌いになることがある。

リーダーのショウタは、いつも事件を起こすので、もう少し慎重に行動したほうがいいと思う。
眼鏡をかけたヤマトは、頭はいいけど意気地なしで、「いまだ!」ってときにちっとも動かない。
太っちょのオサムは、少しぼんやりしていて、みんなの足を引っぱっているような気がする。

一番カッコいいのは、犬のワトソンだ。
誰かが失敗したときや危ない目にあいそうなときは、必ずワトソンが助けてくれる。
ピンチになるとボクはハラハラして本を読むのをやめたくなる。
でも、きっとワトソンがなんとかしてくれる、そう思っていつも読み進めている。
ワトソンこそが名探偵だとボクは思う。

ボクがいつものように本の時間に入ってしばらくしたころ、誰かがボクの背中にドンとぶつかった。
突然、ボクの時間に引きもどされたボクは、ぼんやりとした頭でふり返った。



*** 2022.03.24 表記の揺れを修正


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