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【小説】未来から来た図書館 -12-

母さんが席につくと、一緒に「いただきます」と手を合わせた。
ボクは、一番に鰹のたたきに手をつけた。
ボクは肉よりも魚のほうが好きだ。
学校で友達に、魚のほうが好きだと言ったら、「お前、草食系だなぁ」と言われた。
納得できなかったけど、だからといって、肉食系でもないので否定もしなかった。

ボクは夕食を食べ終わると、母さんに訊いてみた。
「ねぇ、本の中の世界と、ボクがいる世界は、どうやってちがうってわかるの?」
「えっ? なに、どういうこと?」
母さんはお箸でたたきをはさんだまま、驚いた顔をしていた。

「母さんは、本で読んだことと、母さんが見たことはごちゃ混ぜにならないの?」
「本の中の世界って、頭の中で考えたことよね。それと実際に見たことか……。どうかなぁ、ごちゃ混ぜになってるところもあるかもしれないわね」
ボクは、大人はちゃんと区別できるものだと思っていたので、少し驚いた。

「きちんと区別するのは、難しいと思うのよね。もちろん、三匹の子ブタとかのお話とは、ごちゃ混ぜにはならないわよ。母さん、ブタじゃないし」
そう言って、たたきを口の中に放りこんだ。

「でもね。例えば、妖怪とか神様とかって、実際に見たことはないけど、本に書いてあったりするじゃない。母さんは、妖怪も神様もいると思ってるから、それってごちゃ混ぜになってるってことよね。まぁ、父さんには『そんなの非現実的だ』って言われちゃいそうだけど」

たしかにボクが知っていることは、実際に見たことだけじゃない。
頭の中で考えていることと、現実のこと。
これはどうすれば区別できるのだろう。
なかなか難しい問題だ……。



*** 2022.03.26 表記の揺れを修正


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