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【物語】ばあちゃんの指輪

ばあちゃんは、天国にいくまで、薬指にずっと指輪をはめていた。

不格好で、お世辞にも素敵な指輪とは言えなかった。まるで、銀色の細い鉄の棒をたたいて指輪にしたような、大切じゃなきゃ、指が痛くてはめていられないようなものだった。

ぼくは、じいちゃんには会ったことがない。父さんが生まれてすぐ、いなくなったと聞いていた。だから、じいちゃんにもらった大切な指輪なんだろうと思っていた。

父さんとばあちゃんは、親子だけど、びっくりするくらい仲が悪かった。顔を合わせれば、喧嘩をしている。聞いているこっちが嫌になるほど。だから、その指輪を心のよりどころにしているのだろうと、ぼくは勝手に思っていた。

ばあちゃんの指輪の話を聞いたのは、父さんの葬儀の日。久しぶりに親戚一同が集まって、昔話をしているときに、不意にその話を聞いた。

ばあちゃんの薬指の指輪は、父さんが就職してはじめて作った指輪だった。

父さんは、中学を卒業してすぐ、近くの工場に就職した。高校にいくお金もなく、家計を助けるためにも、就職しか道はなかった。

15歳の父さんが、必死に働いても、きっと指輪を買うことはできなかったのだろう。女手一つで育ててくれたばあちゃんに、プレゼントするために、工場の廃材をもらって、作った指輪。

不格好で指が痛くなりそうな指輪を、ばあちゃんは、大切にずっとはめていた。

もっと、素直になればよかったのに。ぼくは、その話を聞いて、そう思った。

ばあちゃんが亡くなった2年後。父さんは、ばあちゃんのもとに行った。きっと今ごろ、また新しい指輪を作っているだろう。

今まで伝えられなかった、たくさんの「ありがとう」と一緒に、その指輪は、きっと天国で輝いている。


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この物語は、半分、実話です。

あんなに仲が悪かった父さんとばあちゃんが、
お互いを思っていたエピソードを聞いて、
人は不器用だなぁ、と心から感じました。

親子という縁で生まれたのだから、
心から憎しみ合う人なんていないんだ。

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