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労働集約型のビジネスは、時間単価を上げなければお金は稼げない(基本編)

先日、勤務先の行政書士法人内で生産性に関する共有をしました。その共有内容をここで投稿します。

行政書士の仕事は労働集約型です。労働集約型のビジネスでは、時間単価を上げなければお金は稼げないようになっています。労働集約型はお金を稼ぐことに限界がありますが、それでも現時点では、その中でどうすればお金を稼ぎやすくするかの原理を知ることは大切に思います。

これは、「どちらかといえば、時間単価を上げるほうが良い」という問題ではなく、「時間単価を上げなければ、業績は上がらない」という構造上の問題です。これが、この文章の主要なメッセージです。
 
なぜ、時間単価の低い沢山の業務を行うより、時間単価の高い業務に移行すべきか?どうして、「時間単価は気にせず、とりあえず沢山受任しよう!」が望ましくないのか?
 
時間単価の考え方を理解することで、生産性を上げるための実質的な行動に繋がります。

1.時間単価とは何か

そもそも時間単価とは、売上を時間で割ったものです。
 
ある案件の報酬額が20万円で、費やした時間が20時間だとすると、時間単価は20万円÷20時間で1万円です。1時間1万円の仕事を20時間やったから20万円になったということです。次の公式が成り立ちます。

時間単価の公式① 時間単価=報酬額÷時間

また、社内では複数人で案件を担当するのが一般的です。その場合は個人に按分された業績が時間単価の元になります。前述の事例で管理担当として60%の按分を持つと、管理担当の時間単価は20万円×60%÷20時間で6000円です。次の公式も成立します。

時間単価の公式② 時間単価=報酬額×按分割合÷時間

注意点のひとつは、時間単価は結果に過ぎないという点です。結果としての時間で報酬額を割ったものが時間単価のため、時間単価は事前に確定できません。
 
もちろん、時間単価を前提に報酬額を設定するなりして、時間単価をコントロールする試みは可能です。しかし、ある案件に最終的に費やす時間は事前にわからないため、正確な時間単価を事前に知ることは困難です。
 
もうひとつの注意点は、ここでの時間は実質的に稼働する時間である点でしょう。ある案件を完了させるのに2週間かかったとしても、稼働した時間はこの案件に関わる顧客との連絡、書類作成、社内打ち合わせ等で、5時間かもしれません。


2.業績=平均的な時間単価×稼働時間

時間単価と業績の関係について、次の公式が成立します。

時間単価の公式③ 業績=平均的な時間単価×稼働時間

ある期間の業績は、平均的な時間単価を稼働時間で乗じれば算出されます。平均的な時間単価とは、当該期間における全ての業務の平均的な時間単価を指します。ある個人が担当する業務には、時間単価が高い業務(例えば2万円)も低い業務(例えば3,000円)も混在するかもしれませんが、平たくすればその時間単価になるということです(※1)。
 
稼働時間とは、ある期間で実際に業績に繋がる時間です。
 
例えば、ある一ヶ月において平均的な時間単価が1万円の人が、実質的に100時間の業務を稼働していたら、業績は100万円になります。
 
この公式の重要な点は、平均的な時間単価を上げるか、又は稼働時間を増やせば、業績が上がることが確定することです。これは、「時間単価を上げなければ、業績は上がらない」というこの文章の主要メッセージの前提となる大切な考え方です。


3.稼働時間は有限

業績を上げるために必要なことが、平均的な時間単価を上げること、又は稼働時間を増やすことなら、どうして稼働時間を増やすことを選ばないのでしょうか?
 
それは、稼働時間が有限だからです。
 
フルタイムの場合の月額労働時間は約170時間です。仮に、労働時間の全てが稼働時間のAさんがいるとしましょう(実際はあり得ません。トイレにも行かないのでしょうか?)。Aさんは時間単価が低い業務のみをしていて、時間単価が3000円だとします。「業績=平均的な時間単価×稼働時間」の公式から、月間業績は3000円×170時間=約50万円です。社内の全社平均は90〜100万円なので、半分しかありません。
 
ここで、Aさんが労働時間を最大限に増やす場合を考えてみます。毎日4時間程を会社に隠れて残業し、100時間の労働を増やして、月間労働時間が270時間になったらどうでしょうか(もちろん、労働基準法に違反するのでダメですよ)。これだけ無理をしても、月間業績は3000円×170時間=約80万円です。やはり、全社平均の90〜100万円にも達しません。
 
稼働時間が有限である以上、稼働時間の増加で業績を上げることは、すぐ頭打ちになってしまいます。

4.時間単価に制限はほぼない

「業績=平均的な時間単価×稼働時間」の公式から、稼働時間に制限があれば、業績向上には時間単価を上げるしかないことがわかります。稼働時間と異なり、時間単価には制限がほぼありません。
 
例えば、世界的に著名な米国人投資家であるウォーレン・バフェットに助言を受けるとしたら、時間単価は数百万円、数千万円になり得ると思われます。(実際、2022年に彼との昼食会への参加権を競う恒例のオークションでは、落札価格は25億円超でした)
 
ここまで極端にならなくても、時間単価を数万円にするのは十分に可能です。社内でも、私が知る限り、金融、再構築補助金、給付金等の時間単価は2〜4万円になる場合があります。
 
制限がある稼働時間より、制限がない時間単価を上げることが、業績を伸ばすためには必要です。


5.時間単価の低い業務は悪循環を生む

我々が注意するべきなのは、時間単価の低さが組織内で悪循環に陥ることです。
 
上述のAさんの事例において、Aさんはある大量業務を行うチームの一員だとしましょう。その業務の報酬額は相場より安くされているため、顧客から依頼される案件数は大幅に増えました。既存の人員数では、この案件数をこなせません。
 
チームは増えた案件数をこなすため、フルタイムのBさんとCさんを加入させます。BさんとCさんは懸命に働き、Aさんと同程度に業務ができるようになり、チームは増えた案件数に対応できました。
 
しかし、「これで解決!」と安心したのも束の間、チームの月間業績を見てみると、3人とも50万円のみでした(3000円×170時間=約50万円)。Aさん、Bさん、Cさんは、「これだけ頑張って働いているのに」と、低業績に苦しみます。一方、「これだけ報酬額が安いなら」と、顧客から依頼される案件数は増えていきます。
 
そして、チームは更なる増員を検討します。
 
・・・・。
 
このチームの業績は、今後どうなるでしょうか。おそらく、同じことが繰り返され、低い業績に陥り続ける可能性が高いです。時間単価の低い業務は、報酬額の「安さ」で案件数を増やし、さらに時間単価の低い業務を増やすという悪循環を生む場合があります。


6.時間単価は報酬額の高さではない

時間単価で間違いやすいのは、時間単価を報酬額と同一に考えることです。
 
報酬額が高くても時間単価が低い業務があります。500万円の報酬額でも、1000時間を費やせば時間単価は5000円にしかなりません。逆に、報酬額が低くて時間単価が高い業務もあります。一次給付金は報酬額5万円程でしたが、稼働時間は2時間程なので時間単価は2万5千円でした。
 
報酬額そのものではなく、時間単価で判断することが重要です。


7.サンクコストは考えない

サンクコストとは、すでに失われて取り返すことができないコストのことです。我々の業務の費用は時間に換算されるので、ここでのコストは時間を意味します。時間単価を考える際は、サンクコストを考えないことが重要です。
 
例えば、必要な時間の見積もりが甘かったため、報酬額に比べて大幅に時間を費やしている案件があるとします。報酬額は10万円、これまでに費やした時間は30時間です。この案件が完了するためにはさらに20時間が必要です。顧客は、顧客都合により契約のキャンセルを検討しており、仮にキャンセルをしても顧客とトラブルの可能性は一切ありません。
 
この契約を継続するかキャンセルするかを判断する時、消費済みの30時間を「もったいない」と感じて判断の材料にすべきではありません。この30時間がサンクコストであり、取り返すことができないからです。時間単価のみの観点で言えば、考えるべきは、これから必要な20時間で10万円の報酬となること、つまり時間単価5,000円の契約を継続することが適切かどうかです。その上で、他の要素を加えて判断をすればよいのです。


8.ゲームの勝ち方を知ろう

あらゆるゲームにはルールがあり、勝ち方があります。
 
もちろん、物事の見え方は様々にあります。しかし、現時点でのビジネスの世界は、「最小の努力で最大の成果を得るゲーム」というのも、説得力をもつ一つの捉え方のように思えます。その意味において我々のビジネス領域では、時間単価が下がると負け、上がると勝てるようになっています。限られた時間の中で最大限の成果を出すためには、時間単価を上げることが重要です。
 
以上が今回の内容です。

本来、労働集約型等の産業構造や限界費用等、経済学の基本的な概念を使えば理解がより深まりますが、今回はそれらの専門用語を使わなくてもイメージしやすいように、働く時間の観点から説明を試みました。
 
興味がある人は自分で学び、現実世界と結びつけ、知恵として身につけてみてください。個人的には、学問的な背景は状況を把握して行動を決定する上で役立つように思います。少なくとも、「どのように状況を見ればいいのか」「何をすればいいのか」がわかりづらい時には、自身の判断と行動の指針にはなり、この点はそれなりに重要な気がしています。


(※1)平均的な時間単価を自ら算出する際には注意点があります。平均的な時間単価は各案件の時間単価からは安易に算出できません。ある人が時間単価2万円の案件を数件、時間単価1万円の案件を数件担当する場合でも、「(2万円+1万円)÷2=1万5,000円」になるとは限りません。平均的な時間単価は各々の案件数に影響されるからです。実際の平均的な時間単価は、時間単価2万円の案件を1件、1万円の案件を9件やったとしたら、「(2万円×1件+1万円×9件)÷10件=1万1,000円」となります。

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