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日本とアメリカのよく似た刑事ドラマを比較してみた

わたしは、ドラマは米英がおもしろいと思ってしまう(わざわざ米英と言うのは、韓流など他の国のドラマを観たことがないから)。
同じ1時間でも見終わった後の満足感が違う。一体なにが違うのか。似たシナリオのドラマを見比べたら何かわかるのではないか。

ところが似た話が見つからない。たとえば刑事ドラマ。ドングリの背くらべに見えても、やっぱりなにかしらちょっとずつ違う。古今東西、大量の刑事ドラマがある中で似た2つの作品を見つける。途方もなさに、この比較を思い立って数か月、なかなか実現できなかった。

だが、見つけてしまった。「これってあれのパク……原作?」という作品を。「クローザー シーズン1」(2005)だ。日本の「緊急取調室」(2014、以下キントリ)を知っていたからすぐに結びついた。

どちらも主役は、取り調べのエキスパートの女性刑事。取調室を舞台に、容疑者たちとの攻防を繰り広げるというもの。
比較するエピソードの選定にあたっては、被害者、容疑者の設定も似ているものを探した。結果、かなり似た話を見つけることができた。

比べてみた2作品

◆クローザーシーズン2(2006)第4話「男たちの思惑」
◆緊急取調室(2017)第7話「女の敵は女」

  • 放送時間
    ともに44分

  • 全体設定
    主人公は取り調べのエキスパートである女性刑事。おもな舞台は取調室。警戒心丸出しのおっさんたちに、嫌な顔をされながらも実力で認めさせ、ポジションを確立。チームとしても安定してきたころ。

  • 被害者
    バリキャリ女性

  • 容疑者
    仕事の利害関係者3人(クローザー:男3人、キントリ:女3人)。

  • 攻略ポイント
    夜の犯行。現場は基本関係者しか入らない場所で、目撃者なし。容疑者は職場の利害関係から浮かび上がった3人。この中からどうやって真犯人を特定するか。

気づいたこと

  • ながら見
    キントリはながら見ができる。洗濯物を干しに庭に出たり、食器を洗ったり。声も聞こえないことがたびたびあっても、そのまま観続けてわからなくなったりしない。ながら見される前提でつくっている?
    試しにクローザーで、同じことをやってみた。30秒離れても、次のシーンで「その小道具がなんで問題になってるの?」となる。巻き戻して何が話されたかチェックすると「そういうことね」とわかる。
    ながら見できるか否かの差は提示される情報の量? 犯人にたどりつくルートの複雑さ?

  • 主人公の“公”と“私”
    クローザーの主人公ブレンダは、恋人をほったらかしにしているのが申し訳なくてディナーの約束を気にしつつ事件解決に奔走する。つかめない事件解決の糸口とデートの時間。公と私の難題両方に追われている。事件捜査だけよりも視聴者が受け取る情報量はぐっと増える。
    キントリの主人公は今回のエピソードではプライベートの話はほぼない。これを不自然とは思わない。もともと日本人は仕事にプライベートの事情を影響させない。誰かに話すとしても、ごく親しい同僚に表層的なことを言うくらい。家族がどうした、恋人がどうしたと持ち込まれてもかえって違和感がある。
    日本のドラマでも、主人公の仕事にプライベートが深く影響することはある。主人公の刑事は過去に家族を殺されているとか。でもそれはいずれ本筋になるための、前振り。持ち込まれる理由がはっきりしてる。
    クローザーに限らず海外の刑事ドラマは主要なキャラクターのプライベートがわりとしっかり描かれる。別の刑事ドラマでは、家族問題の事件を追うときは、主人公も家族との関係に問題が起きたりして喜怒哀楽をがっつり職場に持ち込む。それも親子ゲンカしただの、父親が不倫してるかもとか、本筋になりえない話。だがこれによって視聴者は家族問題のもう一つのあり様を見ることができる。テーマの語りに深みが出るように思う。

  • モヤっとする再現シーン
    日本のドラマは、回想もどきの“再現シーン”がある。キントリで言えば、リカが上司に食事に誘われるもさっと逃げ、上司が不満げににらむシーン。けっきょく犯人ではなかったリカの上司に、いかにも動機があるように見える。
    キントリに限らず、日本のほぼすべての刑事ドラマでこれをやる。関係者の証言を再現ドラマにかぶせるやつ。証言がだだの思い込みだったり、ウソだったりしても、視聴者には事実であるかのように見える。これって推理モノとしてフェアなんだろうか。叙述トリック? 言葉だけだとわかりにくいから絵で見せる親切設計?
    今回のクローザーで再現シーンをやるとするなら、被害者のカレンに言い寄る犯人っぽい男、かな。でもそうした再現シーンは、一切なし。 

  • “味方の中の敵”がザコい
    クローザーもキントリも、主人公の邪魔をする味方の中の敵がいる。
    クローザーの敵はキャリアをつぶして社会的にも抹殺しようかというくらい、容赦なく仕掛けてくる。ブレンダは事件の捜査をしながら、自分の職や名誉を守る戦いを強いられるエピソードがある。
    日本の刑事ドラマの場合、迷惑なくらいポンコツとか幼稚な嫌がらせとかザコ感がすごい。
    主人公を徹底的に困らせ窮地に追い込みなさいと、スクールでは教えられる。一方で、いまどきの視聴者は主人公が苦労する話にストレスを感じて観るのをやめるという話も聞く。主人公は苦労せず、優雅に犯人を見つけてめでたしめでたしというのが喜ばれるのかな。

  • 主役は誰?
    たまたま選んだエピソードが悪かったのかもしれないが、キントリは誰が主役か分かりにくい。脇役の誰かのお当番回でもないのに、だ。紅一点の天海祐希がいりゃ当然彼女が主役とわかる。でも1時間の中で彼女以外の脇役にも均等に見せ場があって、主役だけが際立った能力を発揮し活躍をすることもないので、存在感の点で脇役と差がない。運動会の徒競走でみんなで手をつないでゴールインするという話を思い出す。お国柄? それとも脇役がベテラン俳優ばかりで、甲乙つけるわけにはまいりません、だったり?
    クローザーのブレンダはチームの司令塔。事件解決に向けてメンバーにばんばん指示を出す。相手はやっかいな容疑者たち。恋人とのデートにも間に合わたいし、かつて交際していた現上司も寄りを戻そうと近づいくる。大忙しな中、ブレンダは事件の真相にいち早く気づく。真犯人が言い逃れできないよう証拠をそろえ、ついに自供に追い込む。徹頭徹尾、ブレンダにスポットライトが当たり続ける。
    脚本の先生は「主人公を徹底的に主人公にしなさい」と言っていた。ドラマ制作現場の力学みたいなのがあるのかな? 教科書的な脚本セオリーどおりにつくれないのかも?

  • 死んでも安全第一?
    これは役者さんや演出の領域だから書くの迷ったけど、キントリに限らず日本のドラマって演技が……なんていうかチープな気がする。
    今回のキントリも若い女性が、中年の女性に布で口をふさがれ殺される。やられる!と思ったら、女性だってもっと死に物狂いで抵抗するし、犯人も逃がしてなるものかと本気で押さえつけたりするものでは? まるで必死さがない。ふたりの役者が「はい、殺しますよー」「はい、死にまーす」ってやってそうな緊張感のなさ。
    クローザーの今回選んだエピソードに格闘シーンはないけど、別のエピソードでブレンダが男に襲われるシーンがある。そのときのブレンダの暴れっぷりや、男の力任せの攻撃はかなり激しい。格闘でできた顔の傷も本物にしか見えない痛々しさ。お芝居のはずなのに、本当にブレンダが襲われている現場にうっかり遭遇してしまったようでギョッとする。
    日本の撮影現場は安全第一、なんだろうな。

  • <外>を気にしてらっしゃる?
    日本の役者さんってカメラなのか監督なのか、カメラの向こうで自分を見ている誰かをすごーく意識しながら演技している気がする。意識が<芝居の外>に向いてるというか。ちらちら<外>を気にするから、観客であるわたしも<お芝居を観ている自分>を常に意識させられる。そうするともう没入感というか、ドラマに入り込んで目撃している感じはしなくなる。
    海外ドラマの俳優たちからは、<外>を気にしながら演技している印象を受けたことは一度もない。日米で演技に関する考え方や方法論が違うのだろうか? 能や歌舞伎の影響?

比較してみて

なぜわたしは米英のドラマの方が見応えがあると思ってしまうのか。
やっぱり1話あたりで受け取る情報量なのかな。情報が多いことで主人公の実在感が増したり、テーマの語りに深みが出ていると思う。
わたしは英米ドラマを観るときに、ながら見も倍速視聴もしない。1話44分なら、しっかりその時間を使って観る。それで満足できるから、次を観るときも飛ばそうとは考えない。

先日、家族が観ていたから数年ぶりに日本のドラマをリアルタイムで観た。倍速にしたくて仕方なかった。たるい。理由はわからないがとにかく遅い。キントリも同じように感じたから、日本のドラマのスタンダードなのだと思う。遅いは正義?
しかも設定や展開にはわたし程度でも気づくツッコミどころがちょいちょいあって、“雑なつくり”と感じてしまった。丹念につくり込むのではなく、いかに早く安く1本を仕上げるかが大事?

日本でアニメの脚本家になるには、まずはこういう実写ドラマをつくっている人たちに評価されなければならない。正直、がんばって目指したい方向性じゃない。
これからわたしも脚本の勉強をして、原稿を書いていく。日本のドラマ業界で評価されるかはひとまず置いといて、観終わったときに満足してもらえる脚本を書けるようになりたい。

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