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手すりを使った歩行練習はしない

今回は、リハビリテーションの臨床において、歩行練習の際に手すりを使用することの意味について話します。

歩行障害のある患者さんの歩行リハビリテーションにおいて、リハ初期では立位の保持が課題となりますが、そこから徐々に立位の保持が可能になってくると、次のステップとして歩行練習が始まってきます。

その歩行練習について、最初の段階では、まだまだ下肢の支持性が低く、バランス機能が低下しているので、最初から独歩の練習をすることは難しいです。そこで、ほとんどの場合は、杖や歩行器などの補助具を使用し、療法士の介助下での歩行練習となります。つまり、環境設定や介助量によって歩行の難易度を下げた状態からスタートすることになります。

そんな初期段階での歩行練習でよく選択されるのが、手すり歩行です。平行棒を用いた歩行練習もこれに入ります。

なぜ、初期段階での歩行練習で手すり歩行が人気かというと、下肢機能がまだまだ不十分で転倒リスクが高い患者さんでも、手すりを掴みながらであれば安心・安全に歩けるからです。
平行棒なんか最強で、両手で支持出来るわけですから、歩くことにまだまだ自信のない患者さんでも、平行棒の前に連れていけば、水を得た魚のごとく、ぐいぐい歩いていきます。

こんな強力歩行補助アイテムの手すりですが、僕はこの手すり歩行を滅多に使いません。特に歩行の自立を目指す患者さんの歩行リハビリテーションにおいては、初期段階でも、手すり歩行練習をすることはほぼないです。

その理由は、手すり歩行では「重心移動能力が身につかない」からです。

ここまでお話しすると、もうすでに何となく言いたいことが分かると思いますが、それを、納得のいく段階にまで厳密に説明してみます。

歩行が困難になっている患者さんにとって、歩行の自立を妨げている重要な要因の一つは、歩行中の重心移動が上手くいっていないことです。

歩行は左右下肢に交互に重心移動することで前に進みますが、歩行リハでの特に重要な課題は、患肢(患側)から健肢(健側)への重心移動です。
具体的には、例えば、右下肢が患側の場合、左側から来た重心を右下肢で受け止め、さらに左側へ押し返す必要があります。この時、押し返す方向は単純な左側ではなく、左前方であり、前方への要素が加わって初めて身体を推進させていくことが出来ます。

このように、歩行中の患肢には、体重を片足で支持するという課題だけでなく、重心のキャッチボールを健肢としながら身体を推進させていくという課題があります。
この、「動的な重心のコントロール」が患者さんには難しく、体重を支える力はあるのに(立位はとれるのに)、歩行は出来ない患者さんが居るのもこの為です。

こんな患者さんが手すり歩行をすると、この患肢の「動的な重心のコントロール」を手すりを持つ手が替わりに担ってしまって、患肢はこの仕事をする機会を奪われます。
これも先ほどの右側が患肢の例で説明します。
右側が患肢の場合、多くは左側で手すりを持つことになりますが、歩行中、左からやってきた重心を左の手すりを引っ張ることで、左へ押し返してしまいます。さらに、前方への推進も、手すりを引っ張ることで進めていってしまいます。結果、右下肢は、体重を支える仕事はしていても、左下肢との重心のキャッチボールの仕事には参加していないのです。

この状態での歩行練習を続けると、患肢が「動的な重心のコントロール」を出来るようにならないばかりか、歩行中の身体全体の動きを、脳が、左上肢での手すりを引っ張る動きありきで覚えてしまうといった間違った学習が進みます。そうなると、手すり歩行が上手になっていざ手すりなしで歩こうとしたとき、重心が右下肢で受け止めきれずに右側へ転倒したり、右下肢にきた重心を左側へ押し返しきれずに右下肢が地面から離れなかったり、前方への推進が足りずに後方へ転倒したりしてしまいます。(こういう患者さんほんとに多いです)

では、手すりを使わずに、どうやってリハ初期の患者さんの歩行練習をするのか、ですが、僕は、伝い歩きを使います。もしくは、多点杖歩行を使います。

伝い歩きとは、ここでは、治療台や平行支持台(平行棒の棒の部分が長いまな板みたいになってるやつ)を使って、手で掴みながら歩くのはなく、手を乗せながら歩くことです。
大切なのは、手で引っ張れない環境で歩行練習することだと思います。掴めるものがあってそれが地面に固定されていると、患者さんは、動作中の重心移動の全てを手で引っ張る力に任せてしまうのです。ですので、練習では、手で掴めないものを使うか、掴めてもそれが地面に固定されていないものを使う必要があるのです。

この支持物の使い方をすると、歩行中の台を支持する手では重心移動を肩代わりすることは出来ずに、その役割は支持性の低い患肢の支持を助けてあげることになります。
これによって、患肢の支持性がまだ低いリハ初期の患者さんでも、患肢に歩行中の「動的な重心のコントロール」の仕事を任せながら、歩行練習することができ、支持性が回復した段階では、それと同時に歩行中の「動的な重心のコントロール」も身についており歩行の自立に近づいていけます。

まとめると、手すり歩行練習は、歩行中の重心移動を上肢の手すりを引っ張る力に依存してしまいやすく学習が起こりにくいので、台を支持したり多点杖を使用するなど引っ張れない環境で歩行練習した方が自立への近道になる、という話です。

独裁者の卵コントです
(おもろいんすよこれ)

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