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歩行獲得への第一歩は荷重感覚の知覚

今回は、歩行リハビリテーションにおいて、下肢の支持性を獲得する上で僕がとても大切にしていることについてお話します。

随分と記事の投稿に間が空いてしまいました。(やっぱり毎日投稿してる人って単純にそれだけですごいですね)
実は、最近、新しいウェブサイトを作っていて、そっちに一生懸命になり過ぎていました。
そのウェブサイトは、自主トレ(ホームエクササイズ、セルフリハビリ)指導用のイラスト資料を集めたもので、それらを自由にダウンロードして使えるものです。

僕たち療法士は、しょっちゅう患者さんに自主トレをレクチャーするための資料(リーフレット)を渡します。その度に、その患者さんに合った運動をわざわざ写真に撮って、それに運動の仕方の説明を書き加えます。その手間が実は結構大変です。なので、結構前から、わざわざ毎回写真をとって資料を作らなくても、最初から、誰にでも渡せるような、自主トレ資料が沢山あったらいいのにと思ってました。

そして、ようやくそれが完成しました。
運動の様子が写真じゃなくてイラストで書かれているところがポイントです。(患者さんに配るのに写真はどーも使いにくい)
イラストは僕が手書きで作ってます(結構上手いけど、本当に僕の手書きです)

ページの一番下にリンクを貼ってるので是非覗いてあげてください。
もちろん全部無料でどなたでも使って頂けます。

というわけで、本題に戻ります。

目指すのは「機能的な支持性」、ただ支えられるだけの下肢じゃない

下肢に運動障害を負った患者さんがもう一度歩けるように成るために、最初に通らなければいけないところが、下肢の支持性の獲得です。しかし、この「支持性」にはいろんな側面があって、理学療法士としては、その質にこだわりたいところです。「支持性」の本質は体重を支えることにありますが、ただ支えられるだけでは上手に歩けるようにはなりません。

目指すのは、状況に応じて筋出力の仕方が変えられる「機能的な支持性」の獲得です。

例えば、立位で、左右下肢へ交互に体重移動したとき、下肢の反応として、体重が乗ったときには筋が収縮して体を支え、体重が反対側に逃げたときには筋がリラックスして欲しいです。
しかし、ただ支えられることばかりに一生懸命になり、「機能的な支持性」でない下肢では、体重が乗ったときにも、体重が逃げたときにも下肢はとにかく収縮しっぱなしになっていたりします。

こんな下肢で、左右の重心移動をしたら、体重を乗せていこうとしても、体重を乗せる前から筋が強く収縮し過ぎて、突っ張ってしまって体重を乗せていけなかったりします。
もしくは、体重を乗せたあと、どこまで重心を移動していってもそれを止めようとせずに、そのまま重心が流れていって外側に転倒してしまったりします。

こんなふうにならないために、「機能的な支持性」の獲得を考えたとき、荷重感覚の知覚がとても重要だと思っています。

僕は、荷重練習をするときに、自分の下肢に体重がかかっていることを患者さん自身が感じられていることを大切にします。
もっと言うと、体重がかかっているときと体重がかかっていないときで、下肢の感じに違いがあることを大切にします。

ここを無視して、まだ支持性の低い下肢にとにかく体重をかけて(外から介助して体重移動を無理矢理誘導して)、それに対して下肢で支えるといった練習をすると、懸命に支えようとして、とにかく筋出力を上げて下肢を固めることで対応します。この状態が続くと、下肢を固めて体重を支えることばかり得意になっていき、逆に、自分の下肢にどんな風に体重がかかっているのかを感じる機能は失われていきます。(どんな体重のかけ具合でもとにかく下肢を固めて支えるという戦略だと、体重のかけ具合を感じる必要がないからです。)

これでは、ただ立つだけ(安静立位)ではしっかり体を支えてくれますが、いざ、立って動作をしたとき(動的立位)や歩いたときには、様々な体重のかかり方に応じて柔軟に下肢の筋出力の仕方を変化させることが出来ず、とてもぎこちない動作になったり、バランスを崩して転倒してしまいます。
体重のかけ具合に応じて下肢の筋出力の仕方が変えられるようになるには、そもそもその時、どれくらい自分の下肢に体重がかかっているのかといった体重のかけ具合を感じられている必要があるからです。

これは、脳卒中片麻痺などの中枢神経系疾患の患者さんだけでなく、感覚障害のない運動器疾患の患者さんにも同じことが言えると思います。
昔、僕は、THAの術後で、痛みもなく筋力も十分にあるのに、歩行になるととにかく突っ張ってしまってまったく歩けない患者さんを担当したことがあります。
その患者さんは、立位持、自分の下肢(術側)に今どれくらい体重が掛かっているのかが分からなくなっていました。

荷重とその時の荷重感覚の知覚を平行して促す

ではどのようにして、荷重感覚の知覚を促すのかというと、1つは、荷重練習の際、自分の下肢に体重がかかっていっている感覚にとにかく注意を向けてもらいます。(どやっ)

これは当たり前のようですが、意外と飛ばしがちの工程だと思います。

具体的には、荷重練習の際に、どんな風に荷重を感じるかを患者さんに聞きながら進めます。
例えば、右下肢への荷重練習では「右足に体重をかかっていっていることを右足で感じますか?」とか「左右の足に交互に体重をかけたときに、体重がかかっていっている感じは左右の足で同じですか?」とか質問しながら、荷重していきます。患者さんは、この質問に答えようとして自分の下肢の荷重感覚に積極的に注意を向けます。

こうして、荷重量とそれに対する感覚フィードバック量を脳内でマッチングさせていくことで、荷重に応じた適切な筋出力を引き出していきます。(とにかく下肢を固める戦略を使わせない)

ただ、これくらいの質問だと、大体の患者さんは「しっかり感じます」とか「よく荷重を感じます」と答えます。そこで、患者さんにはさらに、荷重をどの「ように感じるか、体のどの部分で感じるかなど、より細かい荷重感覚に注意を向けていってもらいます。

「体重がかかっているのは、足の裏の中でも特にどの辺りですか?」とか「体重をかけていくと股関節にも重さがかかっていくことを感じられますか?」といった様にです。

こうして、知覚出来る荷重感覚の解像度を上げて、より細かな荷重のかけ具合の変化に柔軟に対応できる下肢の支持性を目指していきます。

そしてある程度体重が支えられるようになってくると、今度は、実際に様々な体重のかけ方に応じた支持を求めていきます。

例えば、立位での下肢への荷重の際に、足の裏の中でも、前足部に荷重を集めたり、後足部に荷重を集めたりします。または、左右下肢での重心移動練習では、下肢を一歩前に出した姿勢や一歩後ろに引いた姿勢で患側に荷重していきます。

こういった応用的な立位での重心移動が歩行の獲得にも重要ですが、ここにスムーズに移行するためには、前半部分での、荷重感覚の知覚を伴った荷重がしっかり獲得されている必要があるということになります。

最後に少しだけ、難しい話をします。

この話をすると、「荷重応答は皮質下(網様体とか脊髄とか)で制御されているので、荷重感覚を知覚させる必要はない(荷重感覚を意識できなくても勝手にに制御してくれるやん)」という反論があるかもしれないです。(誰か反論してください)
でも、僕の臨床経験上、感覚感覚を知覚できてない人が機能的な支持性を獲得しているのは見たことないです。(臨床経験上→Noエビデンス)

この辺の話はまたいつか改めてしたいです。

今回は、下肢の支持性の獲得には、ただ荷重する練習だけではダメで、そこに荷重感覚の知覚を促す工夫が伴っているべき、といった話でした。

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久しぶりにバスケしました。
(最高到達点です。)

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