見出し画像

動作練習中はたった一つのことだけに注意を集中する

今回は、リハビリテーションの臨床において、動作練習の場面での患者さんの自分の身体への注意の向け方についての話です。

運動障害のある患者さんが、新たな動作を獲得しようとその動作を練習する場面では、ただ、やみくもにその動作を繰り返すのではなく、どのようなところに気を付けて体を動かすのかを教えてあげる必要があります。その注意点の伝え方こそが、効率よく動作学習を進める鍵になってきます。

その注意点の伝え方について大切なことは、「一つのことだけに注意を集中してもらう」ということです。

動作練習の場面において、患者さんの運動は僕たち療法士の目からすると、改善すべきところが山ほどあります。特に、各身体部位の動かし方について、改善して欲しい身体部位の運動が複数ある場合があります。そんなとき、それらが離れた場所の身体部位であっても、それぞれが関係し合っているので、つい、患者さんには、それらを同時に気を付けながら動作練習してもらおうとしてしまいます。

例えば、歩行時遊脚期に上手くつま先が上がらず、つまずいてしまう患者さん。この患者さんは、遊脚期で患側の骨盤を引き上げて、体幹を側屈させて、下肢の振り出しを代償しています。この患者さんの歩行遊脚期での改善点は「体幹を正中位に維持」したまま「つま先を挙げる(踵から接地する)」ことです。ですので、リハでの歩行の振り出し練習をするときには、当然、患者さんに「体幹は真っすぐ保ちながら、踵から着地してください」と指示しちゃいます。しかし、この指示は、患者さんにとって難易度が高すぎて、学習の効率を悪くさせています。

患者さんは、多くの場合、運動練習中、自分の身体の二つの部位に同時に注意を向けることは出来ません。特に高齢者は、認知機能が低下してきている上に、姿勢を保つことで精いっぱいでそれ自体に注意の容量が奪われ、とても同時に二つのことに注意を向けるなんて無理です。(僕は若年者ですけど、無理です)

なので、動作練習中の患者さんへの指示は、一つのことだけに注意を集中させるようなものにするべきです。注意しなければいけないことが複数ある場合は、それをその数に分けてそれぞれ練習し、最終的に、それらを組み合わせた一つの動作として練習することが、動作獲得への最短ルートだと思っています。

この事は、運動指導の際のとても基本的なことですが、実際に実践しようとすると、動作における改善すべき点は何なのか、動作練習中の何に注意を向けるべきなのかを、指導する側が明確に理解しておく必要があります。また、注意すべきことを複数に分けたあとは、それらを難易度に応じて段階的に組み立てる必要があります。

これを、先ほどの歩行の振り出し練習に置き換えて説明してみたいと思います。

まず最初の段階では、振り出し練習の際、患者さんには、「自身の体幹が正中位であること」だけに注意を向けてもらいます。この際、振り出すときの足の動き(つま先の上がり)は療法士が介助してあげます。この時の患者さんの指示はこのようにします。

「振り出しの際の足の動きは僕が介助するので無理につま先を上げようとしないで下さい。それよりも、まずは、振り出し運動をしているときに、体幹が傾かないように真っすぐを保っていることだけを意識してください。」

この練習の仕方をすることで、まずは介助下で、「振り出しの際に体幹が真っすぐであること」を覚えてもらいます。今までは、「足を振り出す」ために「体幹を傾ける」必要があり、それらがセットとなり一つの動きとなっていましたが、「足を振り出す」方を介助してあげることで、そちらに対する注意(制御)は必要なくなったので、「体幹を正中位に保つ」ほうに注意(制御)を集中できるようになります。この練習を繰り返し練習し、体幹を正中位に維持しながら介助下で振り出し出来るようになってきたら、今度は、新たな指示を入れていきます。

「足を出したときは、出来るだけ踵から着地するようにして下さい」と指示します。それと同時に、今まで介助していた手を少しずつ緩め、患者さん自身の制御へ移行してきます。

大切なのは、患者さんが自身の身体の一つに注意を集中してもらうように指示し、それさえ出来れば運動が成功するように、足りない部分は、まずは介助してあげる、というところです。そして、それらの手順を段階的に進めていき、最終的には、患者さん自身で、身体の全てを注意(制御)出来ることを目指していくというところです。

まとめると、動作練習中は、同時に複数の箇所に注意を向けるのではなく、まずは、一つだけに注意を向けながらその部分が上手く制御出来ることを目指していく、その際、その他の箇所の運動は、患者さんが注意しなくてもいいように療法士が介助してあげる、という話でした。

羽生さんの奇跡の一手
(将棋全然分からないですけど、何度見ても痺れます)

▽リハ専門職向けの勉強会情報サイト「みんなの勉強会」
ホームエクササイズ指導用資料集(無料)もあります!!
https://minnanobenkyokai.com/


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?