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私の仕事は「家賃設定の専門家」

私は、不動産の管理会社に勤めている。管理部門ではなく、市場調査と賃貸物件(主にアパート)の家賃設定が主な仕事だ。よく「家賃ってどうやって決めてるの?適当?」などと聞かれる。

最後の3文字に腹が立つが、適当に決めてるなどということはない。あまり馴染みのない仕事だろうから、私の仕事がどんなもんなのか語ってみよう。

主な仕事:市場調査

もっとも大事な仕事は、市場調査だ。

その理由は、家賃の決定要因にある。家賃が決まる最大の要因は「相場」なのだ。相場の家賃があって、立地や設備などによって増減する。しかしその増減幅は、それほど大きなものではない。

電車移動がメインの都会なら「駅からの距離」で家賃がかなり変わる。インターネット無料やホームセキュリティがつくと、3,000円〜5,000円程度は変わってくる。

そんなわけで、家賃を決めるには相場が大事。つまり周辺物件の家賃を知らないと、仕事ができないのである。

市場調査の方法

市場調査は、インターネット上の募集情報を調べるところから始まる。ネット上にある情報は、あくまで募集情報でしかない。空室期間はどのくらいなのか、どこまで値引きできるのか、成約したのであればいくら値引きしたのか。

これらは、不動産会社を訪問して確認する。教えてもらえないことも当然あるので、日頃の関係作りが重要である。

これらを確認できたら、数字を反映してデータベース化していく。家賃の変動は、そこまで急に現れるものではない。そのため、プチ繁忙期(9月)が終わったあとに確認。さらに1〜3月は繁忙期のため、毎月確認することにしている。

どんな物件を調査するのか

募集がかかっている物件を全部調査する・・・なんてことはない。しっかりした管理会社がついている物件、地域で力を持っているメーカーが作った物件だけだ。

個人で管理している古い物件などは、オーナーの懐事情で募集家賃が変わってくる。そのため、相場からズレた家賃が出てくることが多い。そういう物件は、参考にしない。

調査をしっかりしておかないと、正しい家賃はつけられない。電車の本数が多い地域では、駅からの距離で大きく家賃が変わる。駅からの距離が5分と10分の物件で、どれだけ家賃に差をつけたらいいのか。

こういうことが、データを分析するとわかる。だいたいで家賃をつけているわけではないのだ。

主な仕事:家賃を決める

市場調査で得られたデータを元に、家賃を決める。しかし、これも一筋縄で行くものではない。どんな風に決めているのか、紹介しよう。

基本:さまざまな項目を比較して決める

家賃は、相場で決まる。じゃあ相場は何で決まるのか?それは、さまざまな条件の違いである。

もっとも影響があるのは、立地条件だ。駅からの距離、商業施設からの距離、住宅街なら小学校までの距離、道路幅の広さ、騒音やニオイの有無などなど。

そこに設備の違いや、見た目、管理の状態などを加味する。多分だが、考える項目は50項目以上あるんじゃないだろうか。

それでも、データ化をしっかりしていれば15分くらいで1つは決められる。

例外1:新築物件の場合

これから新しく建てる物件は、家賃の付け方がちょっと違う。新築は「新築プレミアム」と呼ばれるものがあるからだ。

業界で新築プレミアムとは「相場より高い家賃でも、新築なら借りるお客様がいる」という状態。これがバカにできないもので、場合によっては周辺の築浅物件より10,000円高くても満室になったりする。

今までも「新築とはいえ、なんでこの家賃で入居するの!?」なんて物件を多く見てきた。私は「立地が1番、収納が2番」な人なので、正直いって理解できない。まあそこは、人それぞれなんだろう。

例外2:事故物件

一般的に事故物件とは「室内で死者が出たことがある」というものだ。これは「心理的瑕疵」といって、重要事項説明のときに告知しなければならない。

当然、このような話があって気持ちいい人はいない。必然的に、お客様が付かないので家賃は下げることになる。だいたい、相場の75%前後になるだろうか。

気をつけたいのが「室内で」というところ。室内で倒れた→病院で死亡した、という場合は、事故物件と扱われないことが多い。

また「死亡者が出る→次の方が入居する→退去する」となった場合。次の方が退去したあとの募集では、事故物件と扱わない管理会社がある。事故が起こってから数年間は事故物件として扱うところもあるし、対応がまちまちなのだ。

「事故が起こったことがある部屋は絶対イヤだ!」という方は、迷わず新築を選ぼう。

やりがいなさそう・・・というのは大間違い

読んでいただければわかるように、ほぼ事務的な仕事である。自分で書いていて「うわぁ、やりがいなさそう」と思った。きっと読んでいただいた方も思うだろう。

しかし、意外とそうでもない。どんなところにやりがいを感じるか、説明しよう。

「お客様」は入居者様ではない

仕事にはすべて「お客様」がいる、と私は思っている。そして、私の仕事のお客様は「入居者様」ではない。アパートの持ち主である「オーナー様」だ。

オーナー様は、私たちがつけた家賃で募集することになる。もちろん「安すぎる!」と拒否されることもあるのだが、基本的には私たちの意見が優先だ。

オーナー様に利益をもたらすために

オーナー様がもっとも困るのは「空室状態が長引く」ことである。大手がやるサブリースでもなければ、空室状態では家賃収入がないからだ。

8戸建てのアパートを建てるためには、だいたい1億円くらいの費用がかかる。融資を受けて、返済金額よりも多い家賃が入ってこないと赤字になるのだ。

市場調査を「これでもか!」というほどやって、高すぎず安すぎない家賃を設定する。入居してもらえるギリギリの家賃を設定して、オーナー様に収益を上げてもらう。

ここがやりがいなのである。オーナー様は収益が得られて助かる、私たちは管理費をもらって会社に利益を出す。

直接的に入居者様と関わらないので分かりづらいが、家賃設定している人はみんなこういう思考だろう。

家賃設定のプロ意識

市場調査には、絶対に手を抜かない。現地確認も、すべて把握するまで何度だってやる。1,000円の違いであっても、説明できなければ差はつけない。

今まで、なんとなくて家賃をつけたことは一度もない。すべて理由を説明できる状態で設定している。

なんとなく家賃を設定しても、結果として入居すればいい。確かに結果だけ見ればそうだ。しかし、誰でもそうだが理由を欲しがる。特に、高額を費やして建築したオーナー様ならなおさらだ。

実際に仕事ではあまり使わないが、宅建士の資格をとってよかったと思っている。宅建士の知識は、家賃設定に役立つものが多いからだ。

慣れれば誰でもできるかもしれない。しかし、オーナー様に分かりやすく、理論立てて説明できなければならない。家賃設定のプロとして、そこだけは外さないように心がけている。

最後に

アパートをこれから借りようとしている方へ伝えたい。家賃とは、適当に決まるものではない。そこには、必ず理由があるのだ。

資料をいくつも見比べるのは、しんどいかもしれない。しかし、そこをちょっとだけ我慢して、しっかり見てほしい。極めて細かいところまで見て、家賃は設定されている。

世の中にはいろいろな仕事がある。「家賃設定の専門家」というのは、あまり一般的な仕事ではないだろう。こんな仕事もあるんです。つまらなそうに見えますが、楽しんでやっています。

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